第5章 『その温度を、まだ知らないふりで』
「……𓏸𓏸」
名前を呼ばれる。
そのたび、
身体の奥が熱くなるみたいで、
うまく息ができない。
俯いたまま、
どうにか呼吸を整えようとしていた、その時。
顎下へ添えられていた指先が、
ゆっくり持ち上がった。
「っ……」
逃げるみたいに視線を落とそうとしたのに。
喉元へ触れたままの手が、
それを許してくれない。
「ねえ」
耳のすぐ近くで落ちた声。
優しいのに、
どうしようもなく逃げ場がない。
「顔、見せて?」
無理。
そんなの。
今この顔を見られたら、
全部伝わってしまう。
触れられるたび、
どれだけ嬉しくなってるかも。
どれだけ、
ハンジに触れられるだけでおかしくなってるかも。
なのに。
顎下へ添えられた指は、
急かすみたいには動かない。
ただ、
少しずつ上を向かせるように、
穏やかに熱を添えてくる。
「……ん、」
喉の奥で、
小さく声が漏れた。
視線が合う。
ハンジが、
ふっと小さく笑った。
「……だいぶ限界そうな顔してる」
顎下へ添えられた指先が、
逃げるみたいに俯こうとする顔を止める。
「ちゃんと息して」
困ったみたいに言うくせに。
喉元を撫でる親指は、
少しも離れてくれない。
「っ……」
浅く息を呑んだ瞬間、
また肩が揺れた。
ハンジが小さく笑う気配。
「ほら」
その声だけで、
心臓が跳ねる。
視線だけがやけに優しい。
顎下を支える指が、
ほんの少し持ち上がる。
逃げられない。
近い。
___近すぎる。
「……ぁ」
呼吸が乱れる。
視線がぶつかった瞬間、
ハンジの口元が、楽しそうに緩む。
「だめだね」
喉元へ触れたまま、
耳元で囁くみたいに声が落ちる。
「その顔、煽ってるようにしか見えない」
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