第10章 猫の日
アリスは中也の執務室を訪れるべく、廊下を歩いていた。
「中也そろそろ戻ってくるかなー」
ポートマフィアにおいて、基本的にアリスは書類仕事等の事務処理を任されたりしない。
ポートマフィアに在籍しているのは、「取り敢えず」なので、基本的な仕事は全部他の者へ振る、というのが首領である森の方針だった。
現場仕事のみ、それもアリスが選んでいいとなれば、
如何にアリスが優遇されているかが判るだろう。
勿論、ポートマフィア本部の様々な場所に自由に出入り出来る。
なので、仕事のため外出した中也を、部屋で出迎える心算だ。
ーーーだった、という方が正しい。
「おい」
「?」
アリスは突然、呼び止められた。
その声に反応して振り返ろうとしたが、先に相手の方が早く動いた。
アリスの、首から下がっているネックレスを後ろから引っ張る。
「!?」
アリスも既に振り返ろうとしていた時だった為、首が締まることは無かったが、相手の顔をマジマジと見る時間もなかった。
相手の指がアリスの額に触れる。
その瞬間、アリスの意識はそこで途切れたーーー。
ーーー
「本日の相手方、今までと随分態度が違いましたね」
「何か裏があンだろ」
「探りますか?」
「嗚呼、頼む」
中也がそう云うと、部下は方向転換して去っていった。
中也はそのまま自室へ戻るべく歩みを続ける。
そして、自身の執務室の目と鼻の先の廊下に、何か落ちているモノがあるのに気付いた。
それを、遠目からよく見る中也。
「!?」
そのモノに見覚えがありすぎた中也は、慌てて其の物へ駆け寄った。
「此れは、アイツの服じゃねえか!」
落ちていたモノは、アリスが普段着用しているブラウスやスカート等の身包み一式だった。
中也がザワリと殺気立つ。
脱ぎ捨てられた、というには可笑しな状態で山になっている服達を拾い上げようとした、その時だった。
服の山が、モゾモゾと動き出した。
「!?」
そして、
「う〜……もう、一体何が……あ、中也?」
「……アリス……か?」
服の中から、アリスの色彩と全く同じの、アリスの声で喋る一匹の猫が現れたのだった。