第28章 猿の家
私はこれ以上ないくらいに目を見開いていた。汗が額を伝うのが分かった。呼吸はさらに早くなり、舌が喉に張り付きそうなほど口の中はカラカラになっていた。
ゆっくりゆっくり、その『何か』は左に折れた廊下から這い出てくる。そして、とうとう、チリチリになった赤黒い頭髪が見えた。次第にそれは姿をあらわにし、とうとう、ぬっと顔を出してきた。
声が出たら、私はその時、悲鳴を上げていたと思う。その顔は焼け爛れたような色をしており、鼻や耳はぐずぐずでどこがどうだかわからないほどだった。辛うじて、目があるはずのあたりには、切れ目のようなものが見えるだけだった。
その顔を見て、幸い、私はすぐに卒倒したようだ。
気がついたら、朝になっていた。
「なんて夢だ・・・」
私は頭を振った。体がガチガチに固まっている。まだ、あの顔が脳裏にこびりついていた。あの、焼け爛れたような赤い顔。
赤い?・・・顔?
ここで私ははたと気がついた。
子供が言っていた。
『何かいる』
『あっちの部屋に』
『おさる、おさる!』
まさか・・・
あっちの部屋とは、あの、廊下のことではないか?
そして、『おさる』とは、あの、真っ赤な顔をしたアレを、子供なりに表現したものではないのか?子供にとって、赤い顔のものは『猿』・・・
私の夢だとばかり思っていたものをもし、子供も見ているとすれば、この家には、本当に何かいるのかもしれない。
☆☆☆
結局、あの家に住んだのはほんの3か月程度だった。
私たちは、逃げるように再度引越しをすることになったのである。