第56章 見下ろし桜
「信じてほしいんだ。俺が何かしたんじゃないんだ。Aが勝手に落ちたんだ。」
きっと誰も信じてくれないだろうからと、Bは今までこのことを黙っていたらしい。
なんで今頃私に話したの?と尋ねると、
「実は、あの時、見たんだ。
Aの足にまとわりつく腕と、男の顔を。男はまるで屋上の外からAを引っ張るようにしていたんだ。そのニヤリと笑う男と、俺は目があったんだ。」
「お前、不思議な話とか、よく知ってるだろう?あれはなんだろうって、すごく気になっているんだ。未だにたまに夢にも見る。そいつはニヤリと笑って俺の足にも手をかける」
Bは下を向いて唇を噛んでいました。心なしか肩も震えているようでした。もしかしたら自分も惹かれて死ぬかもしれない、その恐怖が私にこの話をさせたのでしょう。
わからないか、と言われても、分かるわけはありません。
結局、そう答えると、「そうか」と一言だけ言って、Bは帰っていきました。
結論から言えば、Bは死ぬことはありませんでした。卒業後、特にBについての噂を聞くこともないので、たぶん今でも生きていると思います。
真相はわかりません。本当はBがAを突き落として殺したのかもしれません。Bには十分動機もありますし。しかし、ならばBがわざわざあんな話をする必要はないのです。それに、Bの怖がる様は本当のように思えました。
Bが見下ろしたときには現れなかった『それ』が、Aが見下ろしたときには現れた。
そして、『それ』がAを引き込んで、殺した。
やはりそうなのでしょうか。
ここからは私の推測ですが、もしかしたら、見上げ桜にしても、見下ろし桜にしても、死んだ学生は、実は殺されたのかもしれません。特に殺意なく、AがBにしたように、悪ふざけで。
同じ場所で、同じことが起ころうとしていた。だから、『それ』は復讐をしたのかもしれません。
自分がされたのと同じ悪ふざけをしたAに対して。
なんとなく、そう思えたのでした。