第56章 見下ろし桜
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「あの日、俺は、Aに呼び出されたんだ。『金を持ってこい』って。・・・嫌だったさ。でも、それ以上にAに逆らうのが怖くて、結局呼び出しに応じたんだ。金を渡せば癖になる?わかっていたさ。でも、そのときはそうするよりほかなかったんだよ。」
「Aは学校近くのコンビニで待っていた。時間は9時を過ぎようとしていた。うちは門限が特になかったから、親には友達の家で勉強するから遅くなる、と嘘をついていたんだ。そうしたら、Aが、何を思ったか突然、
『見下ろし桜を見下ろしてみろよ』
って言い出したんだ。」
「その日の昼間、あいつは自分のダチに見下ろし桜なんかくだらねー、みたいな話をしたらしいんだ。それで、俺に見下ろさせて、実験しようと思ったらしい。死んでも俺ならいいやって」
「仕方がない。俺はAに促されるまま、一緒に学校の屋上に登ったよ。Aは何度か夜の学校に侵入したことがあるようで、昼の間に窓をひとつ開けておいたと言っていた。それで、俺達は屋上まで行ったんだ。」
「きっかり11時過ぎ、俺は言われるままに桜を見下ろしたよ。怖くなかったか?怖かったよ。もし噂が本当で、引き込まれたらって。うちの屋上知ってるか?生徒が上がる事を考えてないから、フェンスも何もないんだ。本当に引き込まれそうだった。俺は。足元のコンクリにしっかり両手をついて震えながら見下ろしたよ。」
「ちょうど桜は満開だった。見下ろした桜はきれいだった。きれいで、本当に惹かれそうだと思った。でも、それ以上は何も起こらなかった。」
「その時、Aが悪ふざけで、俺の背中を押したんだ。すごいびっくりした。
『うわっ!』って情けない声が出ちゃうくらいだった。Aはケラケラ笑っていた。見下ろし桜なんてやっぱ嘘かよって。」
「Aは自分が俺よりも強いってところ見せたかったんだろうと思うけど、屋上の端に立ってみせた。俺が情けなく四つん這いになっているところで、自分は立てるんだぜっていう感じで。俺はやっぱり怖かったからジリジリ後ろに下がったんだ。下がりながら、また、Aから押されることが怖くて、Aのことをじっと見ていた。早く逃げたいと思ったんだ。」
「その時、突然Aが『うわあ!』って言って、足から落ちたんだ。屋上から・・・。それで、ドサって音がして。Aは死んだ・・・」