異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第1章 始まりは悪女から前編
「申し訳ありません…私が全部悪いんです…」
床に膝をつき、金の睫毛に縁取られた淡いローズクォーツの様なピンク色の瞳が肩と連動して小刻みに揺れている。
その彼女を守るように1人の男性が私の前に立ちはだかる。
陽光の様な透ける金髪が人目を引く長身で均整の取れた体躯。
私を見るその眼差しはまるで剣の切っ先を突きつけてるように鋭い。
私は傍目から見たらどう見ても悪女だ。
私は彼女のような縋り方はできない。
大勢の野次馬に取り囲まれ見世物のように見られる。
私の青い瞳はこんな時でも動揺を映さない。
ただ、彼――アルベルト様と、見た目打ちひしがれてるリリアーナさん、そして…こんな場でも取り繕うことさえできないでただ、公爵令嬢らしく、“冷たい”と囚われがちな視線を2人に向けることしか出来ない自分。
私の役割はわかっている。
か弱い平民出身の少女を虐げる悪女…私、エミリア・ヴァレンタイン。
――そう、筋書きはすでに出来上がっている。
「エミリア。……もうやめろ」
低く抑えた声。けれど、そこに含まれる失望は隠しきれていない。
私は何もしていない。
本当に、何も。
リリアーナさんが階段から落ちたのも、ドレスが裂けたのも、教室で孤立しているのも。
私はただ、距離を取っていただけだ。
公爵令嬢として、不用意な接触を避けていただけ。
彼女の周囲に噂が立ち始めた時も、私は一切関わらなかった。
けれど――
「エミリア様に、睨まれて……怖くて……」
震える声がとどめを刺す。
その瞬間、空気が決まった。
ああ、そう。
“睨んだ”のね。
感情を出さないだけで、睨んだことになるのだ。
無表情は、罪。
沈黙は、肯定。
気高さは、傲慢。
アルベルト様の背中越しに、リリアーナさんが一瞬だけこちらを見る。
その瞳に宿るものを、私は見逃さなかった。
怯え?
違う。
確信だ。
彼女は知っている。
この場を支配しているのは、涙だと。