かぐや姫だって幸せになりたい!!【銀魂 坂田銀時】
第3章 彼はかぐや姫に幸せになってほしかった
銀時が深い眠りに落ちたのは、将軍が去ってから数時間が過ぎた頃だった。
枕元には彼女が残した簪と、月光を織りなした羽衣。
それらを握りしめて目を閉じると、意識は深い闇の底へと沈み、やがて見たこともない銀色の世界へと繋がった。
そこは、簪と羽衣に宿った記憶が見せた一千年前の「月」の記憶だったーー。
銀色の砂漠に囲まれた、息が詰まるほど静謐な宮殿。
銀時の前世――月の守り人の一人であった銀は、その冷たい回廊で、ただ一人祈りを捧げるの背中を、いつも影のように見守っていた。
「……また、そんな顔してんのかよ。祈ってりゃ飯が美味くなるわけでもねーだろ」
銀が声をかけると、祈りの座にいたがふわりと瞳を和らげて振り返る。
「銀……。また貴方ですか。見張りの任務はよろしいのですか?」
「仕事だよ、仕事。あんたがこの檻から逃げ出さねーか、こうして見張ってやってんだ。……ま、逃げる場所なんてどこにもねーけどな」
銀は彼女の隣に腰を下ろした。
はそんな彼の不器用な優しさを知っている。
彼女が宮殿の守護のために心を削り、孤独に折れそうになるたび銀はこうして掟を無視して現れ、下界のくだらない話を聞かせてくれた。
「銀、教えてください。地上の人々は、本当にあのような……色鮮やかな場所で、自由に歩いているのですか?」
「ああ。ここみてーに銀色一色じゃねーよ。春には桜っつーピンクの花が咲いて、夏にはうるせー蝉が鳴く。冬は寒いけどよ、誰かと肩寄せ合って食う鍋は最高なんだとさ」
「……鍋。ふふ、一度でいいから、私も貴方とそれを囲んでみたかった」
の寂しげな微笑みに銀の胸は張り裂けそうになる。
彼女は「月を護る」という役割のために、一生この冷たい壁の中で祈り続けなければならない。
誰かを愛することも、季節を感じることさえ許されない。
「……ここを出て、その『地上』ってところに行ってみたくねーか?」
「え……?」
「俺が、あんたを逃がしてやる。不自由な場所だけどよ、ここよりはずっとマシだ」
銀の瞳に宿る決意には言葉を失った。
月を裏切ることは、死を意味する。
それでも銀は、愛する女性を「神の器」ではなく「一人の女」として生かしたかった。