第3章 【日車】ジャッジマンの戯れ
「知らないのか?人間はこのくらいの距離で話すのが一般的だ」
正論は刃になる。
だが今日は斬るつもりはない。
刃をほんの少しだけ突き立てて、あくまで距離を測るだけだ。
「そんなに殺気を出されては領域展開したくなる」
本気ではない。
しかし、奴は引かない。
(…本気だな)
口角が上がりそうになる。
彼女の戸惑う気配を感じた。
今日はここまでか。
彼女を困らせるのは本懐ではない。
手を下ろす。
彼女は過去守ってきたものに、今は守られている。
それを自覚できる場所にいる。
それが以前との違いだ。
それを二人は自覚しているだろうか?
「日々人間らしくなっていくな」
嘘ではない。
頭に手を置き、耳元で小さく告げる。
「いつも隣にいるアイツのおかげなんだろうな」
彼女は跳ねて朱に染まる。
ああ、そうか。
そういうことか。
奴は内容を知らずに噛み付いてくる。
単純だ。
だが、悪くない。
すれ違いざま、肩を軽く叩く。
「お大事に」
「俺はどこも患っていない!」
いいや、お前はもう十分患っているよ。
壊すなよ。
磨けばお前の武器になる。
背を向けたまま、小さく息を吐く。
判決は―――
今日のところは、執行猶予。
悪くない関係だ。
お前が何を患っているのかわかったのならば第二審を受け付けよう。
まぁ、その時の判決はもう決まっている。
ほんの少しだけ口元が緩む。
誰にも見えない角度で。
舌を出したのはただの戯れ。
ジャッジマンにもたまには遊び心くらいはあってもいいだろう。