第2章 他愛ない
薄日の差す淡い曇天の昼下がり。
積んだ雪が凍みて凝り、ちらちらと細かな光を幾つも幾つも細やかに跳ね散らしている。
初めて温泉宿に泊まったという小枯は、宿坊の縁側で猫のように横ざまに丸まって眠っている。
寒くないのかと思うが、まあ寒くない訳がない。だから猫のように身を縮めて寝ている。
風のない曇天の薄日の日和、宿の庭の凍みた雪に覆われた小体だが整った様に見入って、そのまま幸せそうに寝入ってしまった小枯の姿の他愛ないことに身内が震える。
何か掛けてやろうかと思いもするが、不自由げに寒さを囲いながら日差しの僅かな温もりを抱くように寝る様が得も言われなくて見守ってしまう。
好いた相手の怒る顔が見たくて、困る顔が見たくて、泣きそうな顔が見たくて、つい度を越してしまう構い付けだ。まるで子供みたような自分の心持ちに、鬼鮫は眉を心持ち下げて口角を上げた。
眠る小枯の傍らに腰を下ろし、冷えた肩に触れると小枯が腰に腕を回して抱きついてきた。
起きているのかと驚いてみれば、眉根を寄せてしかし深く寝入っている様子。
流石山育ちの狩人だけあると静かに冷たい頬に掌をのせると、小枯はふっと眉間の力を抜いて僅かに笑った。
鬼鮫は口を引き結び、体をずらして小枯の体を抱き上げ、膝の上に抱えた。
体中どこもかしこも冷たいが、筒袖の表に僅かに日差しの温みが留まっている。
これを愛おしんで寝付いたであろう小枯に鬼鮫は目を細めた。
本当に他愛ない。他愛ないが、どうしようもなく可愛くて仕方ない。
いい歳をして子供みたような真似をするのはお互い様だと気付いて、胸の内がほんのり温まる。
腕の中、膝の上で身を縮める小枯を包むように柔く抱き締めて、鬼鮫はふと自分にも眠気が差してきたことに気付いて笑った。
全くどうしようもない。
小枯を抱いたまま立ち上がり、温かい座敷に入る。
空気の温かさが、馬鹿に多幸感を伴って纏わる。ただ寒いのではなく、ただ温かいだけではない。
小枯といると。
鬼鮫は腕の中で安らかな小枯の寝顔を見てまた口を引き結んだ。
手に入れたそばから失うことに怯える不自由さが言いようのない焦りを生む。
腕の中の温もり。日差しの溜まり。
鬼鮫は目を閉じてまた笑った。
他愛ないことだ。
それがこんなにも痛くて、だが満ち足りる。
ー幸せだ。どうすればいい?
弥栄
