白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第35章 ○ 未来へと続く、あたたかな春 ●
星歌の両親は、緒方が思っていた以上に普通の人であった。2人とも星歌に似て穏やかな雰囲気をまとっていた。それでも、ひと目で上質と分かるスーツやさりげなく身に着けられているハイブランドの時計やバッグなどを目にすると、これは本物のセレブだ…と思わされた。
同棲についての話し合いは比較的スムーズに進んだ。弁護士という職業柄か、きちんと書類を作るべきだと父親が譲らず、その点だけは少し苦労した。
生活においての金銭の負担割合と、星歌がもし妊娠したらどうするか、が主な内容である。
「この書類を作ることは、緒方くんにも悪い話ではないはずだ」
父親は言った。当初、こんな書類は必要なのか?ここまでするのか?と戸惑いを感じた緒方であったが、最後には考えが変わった。星歌への変わるはずのない想いを具現化して証明するものの1つに、この書類はなり得るのだろう。
4月中には清書が届くようにするとの約束で、彼らはニューヨークへと戻っていった。
数日後、十段戦が始まり、緒方は第1局を勝利した。防衛のかかる対局の合間に、緒方と星歌は、緒方の実家を訪れることにした。
緒方の父親は囲碁好きの公務員、母親は専業主婦だ。息子が恋人を連れて帰るのは初めてであり、それがまだ10代の学生であること、婚約して同棲を始めたいとのことで驚かれはしたが、大きな反対はなかった。星歌の両親の職業を知ったことで、地位や金目当てではないかというわずかな疑念も、完全に払拭されていた。
実家からの帰路、海沿いの国道。空は晴れ渡り、雲1つない。春の穏やかな海がキラキラと光を反射している。…星歌との未来も、こんなふうに輝いているだろう。星歌がいれば、オレは何だってできる…。そう思いながら、緒方は車を走らせている。