第4章 童貞を殺すニットの誘惑♡ 【ヒロアカ 轟焦凍】
夕食の湯気が、少しだけ冷め始めている。
リビングのテレビでは、またしても聞き慣れた名前がワイドショーを騒がせていた。
「——人気急上昇中の若手ヒーロー、ショートこと轟焦凍さん。先日、人気モデルとの深夜の会食が目撃されましたが……」
画面には、無機質な表情でビルから出てくる轟の姿。その隣を歩く華やかな女性。
実際にはただ出口が重なっただけだと、後で事務所が否定することも知っている。
けれど、画面の中の彼はあまりに完成されていて、別世界の住人のように見えた。
「ただいま。……遅くなった」
玄関の開く音と同時に、本人が帰ってくる。
ヒーロースーツを脱ぎ捨て、見慣れた部屋着に着替えた轟は、テレビの内容に一瞥もくれずダイニングテーブルについた。
「焦凍、おかえり。ご飯、温め直すね」
「悪いな。……どうした、顔色が悪いぞ」
隣に座った彼が、の顔を覗き込む。
その真っ直ぐな瞳に見つめられると、胸の奥に溜まった澱がチクチクと痛む。
「……別に。また、テレビで特集されてたから」
「ああ、あの誤報か。事務所が対応してる。気にするなと言っただろ」
彼は淡々と、焼き魚に箸を伸ばす。
その落ち着きが、今のには少しだけ寂しい。
「……気にしないようにしてるよ。でも、雑誌を開けば『抱かれたい男ランキング』の常連だし、街を歩けば女の子たちが焦凍の話をしてる。……私だけが、焦凍の『本当』を知ってるはずなのに、なんだか遠くに行っちゃいそうで」
箸を止めた轟が、じっとこちらを見た。
「遠くに? 俺はここにいるが」
「そうだけど……。もし、あの報道が本当だったら、みんなに祝福されるんだろうな、とか。私との生活は、隠さなきゃいけないことばっかりだから」
俯いた視界に、大きな手が伸びてくる。
轟の手がの頬を包み込み、強引すぎない力で顔を上げさせた。
「。俺が毎日、どんな思いでここに帰ってきてるか分かってるか」
「……え?」
「外では常に誰かに見られ、期待され、勝手に品定めされる。……正直、辟易する。だが、玄関を開けてお前がいるだけで、俺は『ヒーロー』じゃなく、ただの『轟焦凍』に戻れるんだ」
轟は少しだけ困ったように眉を下げ、の額に自分の額をこつんとぶつけた。