第12章 ※イタリアの空は、君を諦めない【REBORN ディーノ】
「あ、……っ! あああああぁぁぁっ!!」
激しいピストンが繰り返されるたび、鎖が激しく揺れ壁に打ち付けられる音が重なる。
快楽と苦痛の境界が溶け、イタリアの長い夜はまだ始まったばかりだった。
ーーズチュッ!ズチュッ!
「あ、……っ! や、だ……ッ、ひ、あぁぁぁっ!!」
肉のぶつかる無機質な音と、枷が擦れる金属音が地下室に反響する。
男の荒い鼻息が耳元をかすめるたび、の意識は混濁し、現実逃避するように数日前の記憶へと引き戻されていった。
あの日、視界に映っていたのはこんな薄汚れた天井じゃなかった。
透き通るような青空と、歴史を刻んだ石造りの街並み。
大学の講義で熱心にノートを取った、憧れのイタリア。
長期休暇のために必死にバイトを掛け持ちして貯めた軍資金を握りしめ、一人でこの地に降り立ったのだ。
(……あんなに、楽しみにしてたのに……っ)
イタリア語専攻の意地を見せ、現地の言葉で注文した本場のジェラート。
美術館で何時間も眺めていたルネサンスの傑作。
「Buono!」と笑い合っておまけをくれた、陽気なリストランテの店主。
すべてが輝いていた。
数日前、足を踏み入れたシチリア島。
潮風が心地よい水の都の解放感に当てられ、少しだけ羽を伸ばそうと夜の街へ繰り出した。
おしゃれなバーのカウンター。
地獄への引き金になるとは思いもしなかった。
カウンターで一人、旅の余韻に浸っていたの隣に、音もなく男が座った。
「一人かい? 麗しいお嬢さん。この街の夜は、独りで過ごすには少し長すぎる」
振り返ると、仕立てのいいスーツを着こなした男がこちらをねめつけていた。
その目は熱を帯びていて、まるで値踏みするかのようにの全身を舐めまわしている。
「……いえ。一人で静かに飲みたいので。失礼します」
不快感を隠さず、はグラスを置いて席を立とうとした。
だが、男の大きな手が、逃がさないと言わんばかりに細い手首を掴む。
「つれないな。俺の誘いを断る女は、この島にはいないんだが」
「離して……っ!」
拒絶の言葉を吐き出した瞬間だった。
背後から伸びてきた別の太い腕が、有無を言わさずの口を塞ぐ。
鼻を突く薬品の匂い。
抗う間もなく視界は急激に暗転した。