第8章 可愛い猫の誘惑♡ 【僕のヒーローアカデミア 相澤消太】
「おい、いつまで残ってる。さっさと帰れと」
不意に教室の入り口から響いた低い声に、女子生徒たちは一斉に跳ね上がった。
そこには、相変わらずのだるそうな様子の相澤の姿があった。
「せ、先生! 今ちょうど帰るところです!」
「……そうか。寄り道せずに帰宅しろ」
相澤は、真っ赤になって俯くと一瞬だけ視線を交差させた。
その瞳には、先日彼女を徹底的に抱き潰した男の熱が微かに宿っている。
友人たちに背中を押され、逃げるように教室を去っていく彼女たちの後ろ姿を、相澤は静かに見送った。
「よぉよぉ消太! 今日も一段とお疲れさんだなぁ!」
職員室のドアを開けた瞬間待ち構えていたマイクが、これ見よがしに肩を組んできた。
隣ではミッドナイトが、扇子で口元を隠しながら妖艶な笑みを浮かべている。
「……何の用だ。仕事が山積みなんだが」
「隠したって無駄よ。今日のあなた、なんだか肌の血色が良いじゃない? まるで、溜まりに溜まった『何か』を綺麗さっぱり吐き出してきたみたいに」
ミッドナイトの鋭い指摘に、相澤は眉一つ動かさずに書類を整理し始めた。
「……寝不足が解消されただけだ。合理的判断で早めに休んだ」
「嘘おっしゃい! 休日、何かあったでしょ!」
「そうそう! お前、なんか憑き物が落ちたようなツラしてんだもんなぁ。なぁ、一体どんな『可愛い猫ちゃん』に癒やしてもらったんだよ?」
マイクがニヤニヤと顔を近づけてくる。
二人はあくまで「誰かいい人でもできたのか」と茶化しているだけで、その相手が生徒だとは微塵も思っていない。
相澤はキーボードを叩く手を止め、深く、重いため息をついた。
「……お前ら、暇なのか?」
「図星ね。お堅いあなたがそこまでスッキリしてるなんて、よっぽどいい夜を過ごしたのかしら?」
「……とにかく、お前らが考えているようなことはない。……まだな」
「……あ、今まだって言った! 相手がいることは認めたぜコイツ!」
「あらあら、うふふ。誰だか知らないけれど、ボロが出ないように気をつけなさいよ? 今のあなた、隠しきれない色気が漏れちゃってるから」
茶化す二人を無視して、相澤は再びモニターに向き直った。
(……これ以上は、本当に卒業まで待たないと、俺の理性が持たんな……)