第8章 可愛い猫の誘惑♡ 【僕のヒーローアカデミア 相澤消太】
放課後の進路指導室。
夕陽が差し込み埃が光の粒のように舞う狭い室内には、どこか甘ったるく、それでいて張り詰めた空気が漂っていた。
「……おい、いつまでそうしているつもりだ。もうすぐ見回りの教師が来るぞ」
ソファーに腰掛けた相澤は、自分の膝の上に当然のような顔をして居座るに対し低く、呆れたような声を出す。
だが、その手は彼女の腰を突き放すことができず所在なげに浮いていた。
「いいじゃないですか。進路相談ですよ。私の『卒業後の進路』、先生はもう知ってるはずですよね?」
は相澤の首に腕を回し顔を覗き込む。
至近距離で見つめるその瞳には、かつて彼を押し切った時と同じ、真っ直ぐで熱烈な光が宿っていた。
相澤はわずかに眉を寄せ、視線を逸らした。
「ああ、知っている。……だが、それは『卒業後』の話だ。今はまだ、お前は俺の生徒で、ここは学校だ。分を弁えろ」
「分なら弁えてますよ。だから、制服のボタンは一つも外してないでしょう?」
悪戯っぽく笑うに、相澤は深く溜息をつく。
元々は、彼女のあまりの熱意に根負けしたのが始まりだった。
合理的ではないと分かっていながら、彼女の想いを切り捨てられなかった自分に、相澤は今もなお苦い自己嫌悪を感じている。
「……在学中は絶対に『その先』には進まないと決めたはずだ。俺は自分の理性を信じていないわけじゃないが、お前を危険に晒す真似はしたくない」
「知ってます。相澤先生が、本当はすごく我慢してくれてることも」
は、相澤の頬にそっと手を添えた。その体温が、彼の理性をじりじりと削っていく。
相澤は彼女の手首を掴み、自分から引き剥がすように力を込めた。
だが、その瞳には教師としての厳格さだけでなく、一人の男としての葛藤が色濃く映っていた。