第5章 内側に隠した鈍痛
掃除をしたり夕食の準備をしていると、インターホンが鳴った。
アキが玄関に向かうのを横目で見て、料理をする手は止めなかった。
「アキく〜ん、来ちゃった」
語尾にハートがつきそうな程の明るい声が、玄関から聞こえてきた。
女の人…声と喋り方で、その人がアキに好意があるのに気付いてしまう。
チクリと痛む胸を無視して、料理だけに集中した。
廊下から二人分の足音が聞こえてきて、アキの後ろに眼帯をした女の人の姿を捉える。
目が合い、会釈をした。
「あ、先輩。
えーっと…幼馴染?の結那です。
事情があって、一緒に住んでます」
アキの中で私は、ただの幼馴染じゃなくなった。
アキの曖昧な紹介で気付いた。
私は、アキの中に少しでも何かを残したようだ。
「結那、姫野先輩」
「細川結那です」
頭を下げて挨拶する。
姫野さんの視線が刺さっていた。
「結那ちゃん、よろしくね」
笑った姫野さんの顔は、ただ笑顔を貼り付けただった。
アキを、取られたくない。
姫野さんをリビングに座らせたアキは、手に持った大きな袋をテーブルに置いた。
恐らく、お酒が入っている。
隣に来たアキが、「俺がやる」と腰に手を当てながら、おたまを持った私の手を優しく掴んだ。
「大丈夫。
アキは座ってて……」
いいよ――そう言おうとしたら、奥に追いやられて、唇が重なる。
台についた手に冷たい黒電話が触れた。
絡む舌をただ受け入れる。
両腕を取られ、首に回された。
そのまま力を込め、抱き締める。
アキの勢いに押されて背中を反らせ、離れていく舌を見送った。
残った唾液を飲み込むと、甘えるように頬に擦り寄ってきたアキが擽ったくて、肩を竦める。
アキの、性欲とは似て非なる何かに、正体がわからない違和感だけが膨れ上がっていく。