第4章 『やくそく』
中学3年、春。
任務を終えて車に乗り込んだ直後。
補助監督さんから告げられた言葉が、何度も頭の中で反響する。
「飛ばしてください……!」
急かすように頼み込むと、車は勢いよく走り出した。
赤信号のたびに、心臓だけが先に置いていかれるような感覚に襲われる。
初夏の風が病院の自動ドアを抜け、汗で湿った肌を一瞬だけ冷やした。
それでも、胸の奥に溜まった熱だけは、どうしても引かなかった。
「……っ、!!」
病院に足を踏み入れると、消毒液の匂いと無機質な白さが視界を満たす。
指定された病室まで、息が切れるのも構わず走った。
「恵くん…!!」
扉を開けた瞬間。
俯いたまま動かない恵くんの背中と、
ベッドの上で静かに眠る——津美紀ちゃんの姿。
「……津美紀、ちゃん?」
声が、思ったよりも掠れていた。
確かに呼吸はあるはずなのに、部屋は異様なほど静かだった。
ベッドへ近づき、そっと津美紀ちゃんの手を取る。
触れた指先はほんのり冷たくて——このまま、どこかへ連れて行かれてしまいそうな。
そんな根拠のない不安が、胸いっぱいに広がる。
「……呪われてる」
「っ、」
低く、噛み締めるような声だった。
「反転術式でも……治せない」
恵くんは、私が聞く前にすべてを告げた。
膝の上で固く握りしめられた拳が微かに震えているのが見えて、握りしめていた手に力が篭もる。
「……私、祓ってくる」
「……待て」
反射的に病室を出ようとして、その声に足が止まった。
「分からないんだ。津美紀を呪ったのが、何なのか」
「っ、それでも……」
「五条さんでも分からない。……今は、情報を探るしかない」
その言葉に、奥歯を噛み締める。
五条さんでも分からないのなら、
今は誰にも手出しができないということだ。
無闇に飛び出して祓ったところで、津美紀ちゃんを呪った犯人に辿り着く確率は、限りなく低い。
……それでも。
「……任務、私に沢山振ってください」
傍で待機していた補助監督さんらしき人へ、縋るように呟く。
窓から入り込む、嫌に爽やかな風が鬱陶しかった。
今の私には、あまりにも不釣り合いだ。