第15章 成就の証※
気まずそうに俺から視線を逸らしたナマエは、ほんの少しの沈黙を置いた後、消え入りそうな声で呟いた。
「…………私のお願いも、きいて」
さっき俺が薄膜を奪い取り、自分で着けたことを根に持っているのか。
聞くだけなら、と小さく頷いて見せると、ナマエは交換条件を突きつけるように言葉を紡いだ。
「………今日は痛くなってもいいから、…あたまのなか、真っ白にしてほしいの」
「………」
嫌なこと全てを忘れたい。ナマエはさっきも祈るようにそんなことを呟いていた。
……コイツが望むことは、たとえ表面上だけでもすべて叶えてやりたい。
ただ、それを完遂するということは──俺がナマエを容赦なく、めちゃくちゃに壊し尽くすことと同義だった。
「……ダメだ」
「お願い、……恵くん」
必死の拒絶さえも、被せるような懇願を前にしては徐々に効力を失っていく。
「………お前を、壊したくない」
それでも、この想いだけはずっと昔から変わらなかった。
ナマエが苦しむ姿なんて、一秒たりとも見たくない。
その要因が、他ならぬ俺自身になるというなら尚更だ。
(誰よりも……五条さんよりもナマエを愛して、慈しんで、隣で歩いて生きていくために)
俺の隣が世界で一番幸せな場所だと、ナマエの心に深く刷り込んでいく。……その過程に、コイツを完全に壊す必要はない。
そう信じて、どれだけ煽られようが、丁寧に、限界まで理性を保って今日まで抱いてきたというのに。
「私は……、あの日からずっと、恵くんに壊されたいよ」
その一言が、耳から脳を侵すように入り込んできた。
──去年の、クリスマスイブの夜。
ナマエが俺へ真っ直ぐに投げかけた言葉を、忘れた日は一度だってない。
『恵くんに、壊されたいの』
『嫌いになんて、ならないから』
あの日からずっと、ナマエの気持ちも変わっていなかった。
俺が壊したくないと願う気持ちと同じ熱量で、ナマエもまた、俺に壊されることを望み続けていた。
そして今、この瞬間。ナマエの瞳に宿る熱に感化され、理性が崩れていくのを感じている時点で──俺の負けは確定していた。