第31章 溺れる深海
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「ねえ!真人!・・・真人ったら!」
はっと気づく。あれ?ここどこだ?
「なにぼーっとしてんのよ?次実験よ?実験棟に移動するわよ」
佳奈が僕の手を引っ張って立ち上がらせた。
「ああ・・・」
気の抜けた返事が出る。
なんだろう、ここのところ、ボーっとすることが多い。
眠いわけではない。睡眠は十分、というか、十分すぎるほど取っている。でも、日中ふわっと意識が身体から離れてしまうような瞬間がある。それが増えてきた。
「もう!どうしたの?なんか最近・・・うううん、東京に行った日からおかしいよ!?」
おかしい・・・そうか、あの日から?
「ああ・・・大丈夫。多分疲れているだけだ」
言ってはみたものの、心当たりといえば、あの夢しかない。澪・・・澪を抱けば抱くほど、僕は何かを失っている気がする。
なんだろう・・・?
でも、夜になるとあのカードが手放せない。澪に会いたくて仕方がなくなる。
「疲れてるって・・・。じゃあ、今度のお休み、温泉でも行く?」
温泉・・・?それもいいかもしれない・・・。
ぼんやりしていると、佳奈がバンと背中を叩いてくる。
「もう!しゃっきりしてよね!」
「ああ・・・わかったよ、ごめん、」
澪・・・
僕はここでこう発音したことに、全く意識が言っていなかった。
そして、僕がこう言ったことで、佳奈の顔が凍りついたことにも、気が付かなかった。
☆☆☆
週末、僕と佳奈は温泉宿に来ていた。バスで送迎をしてくれる非常にリーズナブルな宿で、予約も何もかも佳奈に任せてしまった。大学生カップルが温泉旅行なんてなんとなく年寄りくさい気もするが、最近の体調からすると、これくらいがちょうどいいのかもしれない。
佳奈と温泉に行くと約束をした日から、更に状態は悪化しており、頭の中はいつも霞がかかったようになっていた。
さっきまでしていたことを忘れることも頻回だったし、人から言われたことを聞き逃すこともとても増えた。
佳奈がだいぶ僕のことを心配していた。
温泉宿自体はリーズナブル、ということもあり、それほど広かったりきれいだったりはしない。宿と民宿の中間くらいの施設だった。ただ、温泉自体は本物のようで、かけ流しだった。
「温泉の質で選んだんだよ?」
と佳奈は自慢げに言っていた。