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天狐あやかし秘譚

第70章 自縄自縛(じじょうじばく)


そちらに目をやると、道なき道からのそりとソイツが姿を現した。身の丈は2メートルほど。手が異常に長く、そのシルエットは人というよりも類人猿のそれを思わせる。口は耳元まで裂け、発達した犬歯が口の端から顔をのぞかせていた。長い髪が目にかかり、右目だけがちらりとのぞいていた。その目は、いわゆる黒目に当たるところがなく、白目だけだったし、その白目もまた薄ぼんやりと青く不気味に輝いていた。

ソイツは広場に完全にその姿を現すと、腰をかがめたような格好でこちらに正対する。その目が『市ヶ谷玲子』を見て、私を見て、また、『玲子』を見た。

「が・・・がああああああああ!!!」

前触れもなく、天を仰いでソレは一声咆哮を上げた。不自然に太い太ももと細いスネを持った奇妙な足で地面を蹴り、一足飛びにこちらに飛びついてくる。
私は手にしたペットボトルの蓋を開けつつ、呪言を奏上した。

「八門遁甲
 歳刑神(さいぎょうしん)よ、その剣もて死門を閉ざせ」

同時に地を足で鳴らし、用意していた陣を発動する。更に手にしたペットボトルの霊水を『ナニカ』に向けて振るいかける。

ガン、と鈍い音がしたかと思うと、『ナニカ』は不可視の壁に遮られるかのように中空で止まった。ただ、別にダメージがあるわけではないので、ソイツは何事かを喚き散らしながら結界壁を両の腕で叩き続けた。

「おま・・・お前はぁああ・・・なんんだあああ!!」

野太い恐ろしげな声を響かせる。その声に、空気がビリビリと震える。
鬼との距離は約10メートル。私はそっと立ち上がり、ソイツを睨みつけた。

「来ちゃったのね・・・あなた・・・。
 私?・・・私は、宮内庁陰陽寮祓衆陰陽師・・・瀬良夕香よ」
「玲ちゃんを・・・玲ちゃんを渡せぇええ!!」

ソレはそう、おそらくは、『元』木下京依だった・・・モノ。
鬼と化した彼女の同級生が、あらん限りの怨嗟を込めた咆哮を放っていた。
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