第67章 不立文字(ふりゅうもんじ)
ニコニコと笑う。気づくと、野球観戦前の貧相な顔とは顔つきもだいぶ変わっていた。なんというか、全体的にふっくらとして、肌艶もよく、目も優しく垂れ下がり、笑った口から覗く歯もピカピカときれいになっていた。好好爺然としている。
「あなた・・・その格好・・・」
『儂は・・・縁を結ぶ神じゃあ・・・外から来た神、またの名を『えびす』という』
「まま・・・キラキラの神様・・・」
「おお!えびすとは・・・福の神じゃあ」
どうやら、清香ちゃんや芝三郎にもその姿を見せたようだった。彼らには突然光り輝く神様が現れたように感じられたことだろう。
「ああ、そういえば、貧乏神は福の神と表裏一体と言われておるな」
ダリがポツリとひとりごちするように言った。
そういえば、高森さんが調べてくれた資料にもあった。
古来より、貧乏神が回向され、福の神に転じた例が数多くあると。そして、貧乏神は、単に人を貧乏にするだけの悪神ではない・・・とも。
『お前さんたちが必死に助けてくれたことで、あの娘は人の縁の大切さに気づくことができたんじゃ。こんなやり方しかできなくてほんにすまなかったがのお・・・。
じゃが、見ていられんかったんじゃ。せっかくの縁を切ってしまうあの娘の行いを』
儂はあの娘が本当に好きじゃったから、と、元貧乏神のえびす神はふくふくとした笑顔を振りまきながら言った。
その顔は、見ているとこっちまで幸せになるようだった。
ああ、そうか、さっきダリの背中で見た、夢。あの夢は、この福の神の視点だったのか。
自分ではどうしようもないことに直面して、清美さんはやっと縁の大事さに気づけたと。この神はそれに気づかせたいがために、貧乏神として清美さんのところに降り立った、というわけだ。
「これから・・・清美さんは幸せになる?」
私が一番気になったことだった。すごく頑張り屋で、優しい彼女には、幸せになってほしい。
『ああ・・・ああ・・・福の神たる儂が言うんじゃ。間違いないぞよ。
それもこれも、お前さんのおかげじゃ。綾音・・・。
お前さんの優しさが清美の望みを叶えたんじゃよ。ありがとうな。ありがとう。
おかげで儂は清美から離れることができた』
うん・・・そうか。私、役に立てたんだね。
よかったよ、本当に・・・。