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天狐あやかし秘譚

第7章 天佑神助(てんゆうしんじょ)


ダリが通り過ぎたあと、狂骨が逃げようとするが、ダリが右手の槍をトンと地面に軽く叩きつけると、その両の足が砕け、その場に崩れ落ちた。

「動くな、と、言っただろう」

そして、私のもとに来るとそっと膝を折った。

「すまない。綾音・・・怖い思いをさせた。それで?清香ちゃんとは?」
「あ・・・あの・・・狂骨の胸の中に、清香ちゃんが・・・吸収されかけていて、でも、でも、あの子を助けて欲しいの。ダリ・・・できる?」

水に混ざったインクを取り出すようなもの、と御九里は言っていた。
もしかしたら不可能なのかもしれない。でも、願わずにはいられなかった。

「ダリ・・・お願い・・・清香ちゃんを助けて・・・」
衣の袖口をキュッと掴む。
ふわりと、ダリが私の頭に手を載せる。温かい、手だった。

「主の求め、たしかに受け取ったぞ」
すっくと立ち上がる。
「案ずるな・・・我は天狐・・・ダリぞ」

狂骨の方を向き、凶悪な妖怪に歩み寄る。

トン・・・

手にした槍を無造作に胸に突き立てた。

ひぎゃあああ!!

狂骨が奇妙な叫び声を上げ、のたうち回る。

「真澄鏡 清し清しと 別かるるものを
 ぬばたまの 夜の夜に鳴く かささぎよ去ね」

歌うような清涼な声音がダリの口元から流れる。
リン、と清らかな鈴の音が響いた気がした。

ただそれだけだった。

「狂骨が・・・」
狂った鬼の骨が、夜の闇に溶けるように消えていく。御九里が命からがら、それでも足止めすらできなかった凶悪な大妖が、いともたやすく、闇に消えていった。
狂骨が消えると、心なしか周囲の空気が軽くなった気がする。そして、先程まで聞こえていなかった虫の声が響き出す。

通常の秋の夜に戻っていった。

ダリが狂骨が消えたあたりにしゃがみ込む。抱え上げたのは・・・
「清香ちゃん・・・」
ダリの腕の中で、まるで眠っているように目を閉じている清香ちゃんの顔は、写真で見た、在りし日の顔だった。
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