• テキストサイズ

天狐あやかし秘譚

第66章 和顔愛語(わがんあいご)


☆☆☆
『い・や・じゃ!』
貧乏神が頑なに首を振る。
身体の横でぎゅっと両手を握りしめ、顔をうつむかせ、完全拒絶の構えだ。

場所は再び綿貫亭。どうしても貧乏神は家に入らないので(まあ、入られても困るが)、また庭で話し合っている。家の中では清香ちゃんと芝三郎がみゆきちゃんと遊んでくれていて、清美さんもそちらで子どもたちの面倒を見てもらっていた。私とダリは『買い物に行ってくるから』という建前で外出をして、庭の端っこで貧乏神と話している、というわけである。

私達は貧乏神に、今度の日米交流戦で大谷を応援させてあげると提案した。その提案に貧乏神は小躍りせんばかりに喜んだ。ところが、そのときにダリが黄龍の札で貧乏神のパワーを抑える、と言った途端貧乏神が発したのが冒頭のセリフである。

『嫌じゃ!絶対嫌じゃああ!』
「一体何でよ!」
『嫌って言ったら嫌なんじゃ!』

まるで駄々っ子だ。そんなに力を抑えられるのが嫌なのか?

「だって、札で力を抑えないと大谷負けちゃうんだよ」
『そんな事はわかっとる。嫌なのはそこじゃない!』
え?札で力を抑えられるのが嫌なんじゃないの?
「え?大谷の試合が嫌なの?」
『そんなわけないじゃろ!大谷、最高じゃ!』
「じゃあ、なんなのよ!」
『嫌じゃああ!男に力を抑えられるのは、嫌なんじゃああ!!!』

なんですと?

貧乏神は切々と語った。
『力を抑えるということは、体内をいじられるに等しい行為じゃあ
 それを・・・それを、男にされるなんて・・・儂の貞操観念が許さんのじゃ!
 嫌なんじゃああ!』
べそべそと泣き始める。大谷の試合は見たい。でも男に体内をいじられるような思いはしたくない。その葛藤で泣いている・・・らしい。

呆れて物が言えない。
願いを叶えてやろうというのだ、それぐらい我慢してほしい。
「もう、どうしろっていうのよ」
ため息混じりに言うと、ケロッと泣き止んで、貧乏神が私の顔を見た。
『お前さんならいい』

はい?
私?

『そうじゃ。お前さんが符を持って我が力を抑えるなら、儂ゃ頑張れる』

そんなこと言ったって。
この符で貧乏神のパワーを抑え続けるにはものすごい量の呪力が必要だと瀬良は言っていた。そんな力、私にあるわけがない。
/ 733ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp