第61章 辺幅修飾(へんぷくしゅうしょく)
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【辺幅修飾】体裁だけ見た目良く取り繕うこと。
ほころびはじめたところだけちょっと縫って取り繕っちゃうぞ、みたいな。
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「おーい、宝生前!宝生前ってば!」
耳元で大声で叫ばれ、やっと私は我に返った。
目の前に呆れ顔で自分を見下ろす男がいた。
島本・・・
島本は鼻筋が通っていて、思春期の男の子にありがちなニキビもアバタもない、きれいな肌をしていた。野球部で鍛え上げた胸板は厚く、二の腕もガッシリとしている。
黒い短髪が、学ランによく似合っている。
うちの学校の野球部が丸刈り必須じゃなくて、本当に良かったと、密かに思っていた。
「なんだ?島本」
「お前、さっきから、何ぼんやりしてんだ?
チョコ、貰えんかったの、そんなにショックだったのかよ!」
そう、高校2年生の2月14日、皆が皆、『誰からチョコを貰った』『誰にあげた』などとざわめく中、私だけは、それとは異次元の世界にいた。
確かに、お前の言うように、私はチョコレートなんてもらっていないよ。
でもね・・・。
昨日の話を思い出して、私の胸がキリリと痛んだ。
「遼子ちゃんからチョコもらえるとはなあ!」
島本が照れたように後ろ頭を掻く。
私はなんと言っていいかわからなかった。
「宝生前よ!お前も狙ってる女子の一人、二人いるんだろ?
いっちょ、協力してやるからさ、
一緒に青春、しちゃおうぜ!?」
その健康的な白い歯を見せ、いたずらっぽく浮かれたような笑みを漏らす。
よほど嬉しかったのか、遼子ちゃんとやらからもらったチョコレートの箱をためつすがめつ眺めていた。
ぎゅっと、机の下で拳を握りしめる。
そうでもしないと、叫びだしそうだった。
「な?」
にっこりと微笑まれて、ドキリとしてしまう。
一瞬、この「な?」がどういう意味かわからなくなるが、『お前も誰かと付き合うなら協力してやるからどうだ?』の続きとしての「な?」であることにやっと思い至った。
「あ・・・ああ・・・。
そうだな・・・でも、受験あるしな」
なんとか、絞り出すように言葉を繋いだ。
いたたまれない。
早く、ここから離れたい。
「硬えなあ、お前。青春はな?一度しかないんだぜ?
好きな人にどーんと告白してさ、砕け散ったならそれでいいじゃねえかよ」