第57章 猪突猛進(ちょとつもうしん)
ダリが言うには、おそらく土御門が使った蛇之麁正の権能だろうとのことだった。この世で唯一、疱瘡神を封滅する剣。それを媒介に術を放ったことで、封印される直前に真白は人間としての姿を取り戻すことができたのではないか、と。
「結局、二人を助けることは出来なかった・・・」
足玉はひとつしかなくて、それを颯馬が持てば真白は疱瘡神になってしまい、真白が持てば颯馬が死んでしまう。
二人は、ともに相手のために自分の命をなげうとうとしていた。
互いに・・・相手を一番に思っていた。
「泣いてるのか?」
ちょっと、景色がぼやけた。
私が泣いたってしょうがないことだっていうのは分かっているけど、なんだか、あの二人の必死さを思うと、胸が苦しくてたまらなくなった。
「嘆くことはない。
こやつらを救ったのは、お前だ。
胸を・・・張っていい」
ダリが、優しく言ってくれた。
「救った?」
「ああ・・・そうだ
少なくとも女の方は邪神になる未来を免れたし、
男は愛する者と一緒に居続けることができた。
人が到達できる中では最良の結末だ・・・
お前がいなければ、こうはならなかった」
夕闇に沈み始めた森。時間が止まったような水晶の中で、二人が少しだけ満足そうな顔をしてるように見えたのが・・・、それが、せめてもの救いだと、私には思えた。