• テキストサイズ

天狐あやかし秘譚

第57章 猪突猛進(ちょとつもうしん)


☆☆☆
結局、しばらく迷った後、私は仮病作戦を実行に移すことにした。
別に私が仮病を使ったからと言って誰が損する訳では無い。足玉がなければそれだけだし、あったときは・・・また、考えようと思ったのだ。

女中に「頭が痛くて気持ち悪い」と告げると、彼女は慌てて体温計を持ってきた。
私は、ポケットに入れておいた小さいカイロで体温計の温度を38度2分まで上げる。その体温を見た女中が、慌ててパパに報告したみたいだった。

しばらく布団で眠っていると、パパが会社を早退して戻ってきた。
そして、枕元に小さい布袋を置いた。

「それ・・・なに?」
わざと苦しそうに息をしながら、私が尋ねるとパパは『お守りだよ』と言った。パパが席を外した隙に、その袋をあけてみると、中には、白と黒の光がウネウネと蠢いている不思議な勾玉が入っていた。

足玉だ・・・。
私は確信した。

そして、同時に理解した。
私の身体の中に、『疱瘡神』という恐ろしい神がいることを。

民話がたりの先生への最後の質問が頭に蘇る。

『先生・・・足玉がないと、その家の女の子は、どうなるんですか?』
私はこう尋ねた。思えば、この時既に嫌な予感がしていたのかもしれない。
うん・・・と先生は腕組みをし、少し思案してこう答えた。
『伝説では、足玉が疱瘡神を抑え込んでいる、ってことになっているから、
 それがないと、その女の子自身が、きっと醜い『疱瘡神』になっちゃうんだろうね・・・』

そうなのだ。
足玉がないとお兄ちゃんは死ぬ。
足玉をお兄ちゃんに渡せば、私は世にも醜い『疱瘡神』になってしまう。

幼いながら、私の心は千々に乱れた

仮病を使い、足玉の存在を確信した後、あれこれと家の中を調べて、パパが足玉を書斎に隠していることを突き止めた。
また、どうやらママは足玉を15歳になったときから身につけていた、ということも分かった。だから10歳の私はまだ足玉を身に付けなくてもいいのだ。それは裏を返せば、15歳までは足玉がなくても私は疱瘡神にならない、ということだ。

15歳・・・。

こうしている間にも、お兄ちゃんは日に日に弱っていく。
死がひたひたと足音を立てて、迫ってきているかのようだった。
/ 733ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp