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天狐あやかし秘譚

第41章 季布一諾(きふのいちだく)


「会いたいよ」
手を伸ばす。その手が、『彼』の頭に触れようとする。
玉置の目は、優しい少女のそれだった。愛おしむように、まるで、恋人に向けるように。
でも・・・。

「あなたは選ばなければならない」

『私』は言った。言うべきだと思ったからだ。

「この者は、もうすぐ『死ぬ』。死ねば、二度と会えない。
 だから、お前が望み続ける限り、この者は苦しみながら最期まで生きようとする。
 どうする?
 契を結び続け、この者を苦しみのまま限界まで生かすか?
 契を解き放ち、この者の苦しみを終わらせるか?」

そう、約束に縛られて、この者は枯れることも出来ず、内部から朽ちている。
その痛みは想像を絶する。それでも、この者はそれを選んでいるのだ。

お前は、どうする?
玉置

「私が・・・苦しめているのか?」

『私』はうなずいた。
お前が鍵だ。お前が契の主だからだ。

死ねば会えなくなる。だから、ひと目なりとも、と思って連れてきたが、この者はそれを拒んだ。

「あなたが苦しむのは嫌だよ・・・嫌だよ」
玉置は泣いた。膝を落として、空を仰いで、泣いた。
その姿は、まるで子どものようだと、『私』は思った。


「結婚しても、子供が出来ても、忘れたことなんかなかったよ。
 いつも、支えてくれた、いてくれた・・・。嬉しかったよぉ。
 ちゃんと、言わなきゃってずっと思っていたんだ」

だから・・・

「もう・・・苦しまないで・・・・」
ゆっくりと玉置が頭を下げた。

「本当に・・・ありがとう・・・。」

ざああああっと風が吹き抜けた。市民の木の枝を揺らす。

根本にうずくまる木霊が、『彼』が、ふわっと笑った。
そして、その姿は徐々に中空に溶けていった。

「いって・・・しまったよ」
泣き崩れる玉置に、『私』は目の前のありのまま、そう言った。
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