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天狐あやかし秘譚

第40章 一意専心(いちいせんしん)


「あなたとお話がしたいのです」
「なんだい。そりゃホールドアップ、ってことかい」
玉置がカッカと笑った。私もニッコリしてみる。
笑顔は人の子同士で警戒心を解く方法だと知っていたからだ。

「姉ちゃん、役所の人間じゃないね?」
「はい。私は役所の人間ではないです。」
そう『私』は桔梗だ。
よかった。話ができそうだ。

そして、この手をいつ降ろせばいいのかについての知識がないので、とても困っていた。この姿勢を維持するのはあまりこの身体の主にとって、良くない気がする。

「なんの用だい?それに、いつまで手、挙げてるんだい?」
玉置が玄関先に座る。いつまで挙げているのか、と聞いたということは、下げてもいいということだろうか?
「手を下げても、話をしてくれますか?」
わからないので聞いてみた。玉置がまた笑う。
「変わった子だね。あんたが安全だってのは分かったよ」
それを聞いて安心した。私は手を下げる。こころなしか、肩とそれに続く腕の上の方に痛みがある気がする。
この身体になにか悪いことがあると、きっとさっきの男が怒ってしまうだろうと思うと、忍びなかった。

「あの・・・木の下の・・・」
そこまで言いかけて、『私』は言葉に詰まった。この老婆には、あの者の姿は視えているのだろうか?ここで思い至る。そうだ、彼女は言っていたではないか『あの樹には神様が住んでいる』と。
だから、思い直して『私』は続けた。
「木の下の『神様』とは知己なのですか?」

玉置は一瞬目を丸くした。『驚いた』時に人の子がする顔だと思った。
そして、その後、笑った。先程のような笑いではなく、もっと・・・なんというか、柔らかな笑顔だった。

玉置が『私』にも座るように言う。
そして、話し始めた。自分と、木の神様との話を。
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