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天狐あやかし秘譚

第38章 情意投合(じょういとうごう)


その様子を見て、瀬良は目を細めた。
もし、自分が子どもを産んだら・・・。こんなあったかい情景を毎日見られるのだろうか?

その父親が・・・、と考え始め、浮かんできた顔に、慌てて頭を振ってイメージを吹き飛ばそうとする。

いけない、いけない・・・。

それが叶わぬ夢なのは、重々承知しているはずである。瀬良の家に生まれたからには、仕方のないことなのだ。

だったら、せめて、今のこのときだけでも、母親気分を味わいたい。

「ねえ、瀬良お姉ちゃん。ままはいつ帰ってくるの?」
清香がほっぺたにいくつもハンバーグのかけらをつけながら聞いてきた。瀬良はウェットテッシュでほっぺたを拭いてやりながら答える。
「うん・・・お昼に連絡あったよ。明日、帰ってくるよ」
言うと、ぱあっと彼女の顔が明るくなった。やっぱり、綾音さんの方が良いのね?

それは、まあ、当たり前なのだけど・・・。少しがっかりでもあった。

嫉妬してるのかなあ。

浦原綾音・・・。
天真爛漫と言うか、屈託がない、可愛らしい女の子。

運命にがんじがらめになって、屈託しきっている自分とは大違いだ。
でも、そんなことを顔には出せない。ましてや、今は仕事中だ。

「早く、帰ってくるといいね」

また、心にもないことを言ってしまう、自分はやっぱりちょっと嫌いだった。
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