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天狐あやかし秘譚

第5章 夢幻泡影(むげんほうよう)


☆☆☆
ここはどこだろう?
暗いところだった。だんだん目が慣れて来ると、どうやら、家の中にいるみたいだと分かった。

どこにでもあるような普通の住宅の廊下にいた。右手には階段、背面は玄関だろうか?三和土がある。
正面に扉がある。おそらくその向こうはリビングのような造りだろう。

バシン!バシン!

奥の扉の向こうから何かを叩いているような音が聞こえた。

バシン!バシン!

その音とともに、うっ、うっ、という短いくぐもった声も聞こえる。
私はそっと扉に近寄り、細く開く。

まるで影のような男性が立っていた。それは竹刀のようなものを振りかぶっている。
先程からの音はこの竹刀が、男性の足元にある何かに振り下ろされている音だった。

バシン!バシン!

うーっ・・・うっ!

ダイニングテーブルが邪魔でよく見えない。私は机を回り込んで行こうとする。不思議と人の家に勝手に入って怒られるんじゃないかとか、この状況が恐ろしいとか、そういうことは感じなかった。ただ、何が起こっているのか、見なければ、という思いだけがあった。

机を回り込んだ私の目が大きく見開かれる。

そこには子供がうずくまっていた。
4〜5歳くらいの女の子が、亀のように丸くなっている。口を両手で必死に抑えて、声を上げないようにしている。

竹刀が背中に振り下ろされるたびに、その子は痛々しく目を見開き、口をぎゅっと押さえる。

止めるべきなのに、声が出なかった。足が地面に張り付いたようになり、身動きすらできない。影のような男が竹刀を振り下ろし続けるのを、私は立ち尽くして見ていることしかできなかった。

ぐにゃり・・・と世界が歪む。まるで世界が一度水に溶けたようにぐちゃぐちゃに混ざっていく。しばらくすると、また世界が再構成される。

今度は、女の子が独りで机に座っている。クレヨンで、絵を描いている。
真っ黒い影法師のような人間を描いていた。そして、その絵を上から、真っ赤なクレヨンでグリグリと塗りつぶしていく。その目は真剣そのものだった。

また、ぐにゃりと、世界が歪んだ。
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