第35章 窮鳥入懐(きゅうちょうにゅうかい)
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少し離れたところで圭介を起こし、真名を聞き出そうという計画だ。ホシガリ様が乱入してくればうまくいかない。圭介が何らかの方法でホシガリ様を操ることができるなら、とにかく、まずやるべきことは圭介を彼女から引き離すことだった。
でも、走っているうちに私にひらめくことがあった。
そう、記憶によれば、あれはこっちの方にある。
異界において何百年もこの屋敷で過ごした『私』は、屋敷の構造について誰よりも熟知していた。その記憶が教えてくれる。
「宝生前さん、草介さん、こっちに!」
私が次々と襖を開け、戸を開き、廊下を抜けていく。そして、たどり着いたところは・・・。
「ここは・・・」
おそらく草介さんもその存在を知らなかった場所だろう。
「ここで、圭介を説得します」
私は宝生前を見つめて言った。
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宝生前が印を結び、気絶した圭介の額に念を放つ。彼の土の術式により、強制的に昏倒から意識を呼び戻すためだ。
うーん・・・と唸り声をあげ、圭介が目を覚ました。
もちろん、身体の自由を奪うため、両手を後ろに回し、親指同士を麻紐でくくってある。これで、ある程度行動を抑制できるはずだ。
「ここは?」
意識の焦点があってきて、自分の置かれている状況を理解し始めたのか、圭介はあたりを見回し、不審そうに呟く。
「あれがなんだか分かる?」
私が指さしたのは、ざっと30畳はくだらない部屋いっぱいに広がる、土饅頭たちだった。
「な!?」
圭介が色を失う。驚いて当然だろう。部屋の床は抜かれ、下の地面が顕になっている。そこに累々と土饅頭が作られている。屋敷の中に突如現れた、それは、墓地だった。
ここはホシガリ様となった海子の姉が、代々の『婿』を埋葬し続けた場所なのだ。
「あなた達浮内の家の者が『生贄』と思っていた婿たちは、皆ホシガリ様の本当の悲しさに触れて、一生を添い遂げた。彼女もまた、彼らを愛し、そして、きちんと弔ってきた。これはその証よ・・・。圭介さん、あなた達一族がホシガリ様となった彼女にしたこと、ホシガリ様の婿にしてきたこと、これを見ても、まだそれを続けるというの?」