第31章 誨淫導欲(かいいんどうよく)
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一方、宝生前の部屋では彼の唇を奪おうと、小柄な女が唇を寄せつつあった。
小柄な方は名を薫と言った。
薫には自分の魅力に相当の自信があった。自らの身体が発するむせ返るようなメスの匂いが男を虜にすること、そして、この肉付きの良い身体を男がいつも触りたがることを知っていたのである。
だからこそ、
「ストップです」
キスをする直前で手のひらでそれを止められるなんて、夢にも思っていなかった。
「何?あなたもしかして、妻帯者?・・・大丈夫よ・・・ここに一生いればいいんだから。私達の身体に溺れちゃいましょうよ・・・」
薫はなおも蠱惑的に迫っていく。過去、自分にこうやって迫られて、掻き立てられた欲情に負けない男などいなかった。ただ、この男は違った。はあ・・・とひとつため息をつくと、
まるで面倒事を抱えてしまったとでも言いたげに呟いた。
「貴方がたは幸運ですよ。私を選んで・・・もし、ダリさんや綾音さんを選んだら、もっとひどい目にあったでしょうからね」
なぜ、この男はなびこうとしない・・・?いつもと勝手が違い、薫は少し焦っていた。
「あら・・・私達の身体・・・抱いてくださらないの?」
スレンダーもその裸身を宝生前に寄せる。こちらは名を礼と言った。
礼もまた、なんとか宝生前をその気にさせようと、その耳元に口を寄せ、ぺろりと耳朶を舐める。
「おっと・・・それ以上はご勘弁ください・・・」
二人の女の努力にも関わらず、宝生前は彼女らを押しのけて立ち上がると、少し乱れたワイシャツを直した。耳についた女の唾液をさも汚いものであるかのように手のひらで拭き取ってしまう。
「すいません・・・私・・・あなたたちには一切興奮しないんです。ほら見て、全く勃起してないでしょ?」
確かに宝生前のズボンの股のあたりにはなんの隆起も見られなかった。
はい?
二人の女は目が点になる。こんなことは初めての体験だった。自分たちとこの男、まるで温度感が違う。そして、その理由はすぐに判明することになる。
「申し訳ない・・・私・・・ゲイなんです」
宝生前はそう言うと、ポケットから出した石釘を女たちの足元に投げつけた。
その釘が畳に突き刺さり、ぶううんと低い音を立てて震えた。