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天狐あやかし秘譚

第29章 異聞奇譚(いぶんきたん)


☆☆☆
「もう少しで、今回の調査地、浮内島(うきないじま)につきますよ!」
船の舳先にすっくと立って前方を見ている男性が言う。

この漁船に不釣り合いなスーツ姿のやや痩せぎすの男の名は宝生前桐人(ほうしょうまえ きりひと)、宮内庁陰陽寮陰陽部門に属する陰陽博士だ。彼が属するのは、主として祭祀や結界術等を担当する祭部衆と呼ばれる部門であり、そこで『属の二位』という位階を頂いていた。

「・・・ぐええ・・・」

乙女らしからぬうめき声をあげているのは何を隠そう浦原綾音、私自身である。彼の言葉に返事をする気力すら残っていない。なぜって、先ほど来、めちゃくちゃ揺れるこの漁船での移動による船酔いと激闘中だからである。なんとか船の縁につかまって耐えているが、何度も海の魚に胃の内容物を餌としてくれてやってしまっていた。

うう・・・嫁入り前なのにぃ・・・。
ぎぼぢわるい・・・。オエッぶ・・・。

ダリはというと、漁船の操舵室の上部、普通は人が乗らないようなところであぐらをかいて座っている。一応何度か私の様子を心配するように声をかけてくるが、別に助けてくれるわけでもない。

・・・薄情者・・・。

うっすら目を開けて宝生前が指し示す方を見ると確かにうっすらと影が見える。

浮内島・・・。
あれが私達が、というか、私が、陰陽寮に就職して初めて請け負った仕事の現場、というわけだ。

「もうすぐですよ!綾音さん、気を確かに持ってください」

宝生前さん。意外に男前だし、親切なんだけど、土御門や御九里とは違った意味で、マイペースな人である。見た目は渋めの男性なのだが、なんというか、興味を惹かれるものを目の前にすると、子どものように好奇心を丸出しにし、嬉々として熱中してしまう・・・、要は学者肌の人なのである。

今回の任務は、宝生前と私達とで、あの浮内島で数十年に一度不定期で行われる『輿入祭』(こしいれまつり)という奇祭について調査することである。
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