第20章 往事茫茫(おうじぼうぼう)
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「この術式、正確には時間停止ではなく、時間遅延なのです!ううーーん・・・。内部の時間はざっと通常の100万分の1程度まで遅くなっているようですねえ。つまり、ここで1日過ごせば、外界では100万日、およそ2700年が過ぎる計算です」
興奮気味に土門杏理は言う。
「なるほどなあ、時間停止やないということは」
「はい!おそらく、天狐はこの場所の時空を凍結したのではなく、このライブラリーごと無理矢理に作り出した異界に閉じ込めた、みたいなことをしたのだと私は思うのです。なので、異界に入る要領で侵入可能!ただし・・・下手したら・・・」
「綾音はん、戻ってきたら、浦島太郎、ってわけやな」
つまり、入ることはできるけど、出てきた時に1000年とか経っているってこと?
「だ、大丈夫なのです!おそらく、天狐はその辺計算づくでしょうから。中に入って天狐に接触、術を解く時に時間軸の補正をしてもらえれば、この時間に帰ってこれます。・・・そうだ!一応念のためです。これを使いましょう」
土門はゴソゴソと背負っていたリュックから糸玉を取り出した。
「古典的ですが、元の場所に戻るためにはこっちとの縁を結ぶ必要があるのです!この玉の糸の先、綾音さんの足に結んどきますね」
んじゃあ、と、土御門が手を出す。
「糸玉はわいが持つわ。これで、綾音はんとの縁、わいがもてるっちゅーわけや。嬉しいね」
冗談とも本気ともつかない、笑みはいつも通り。それは少し私を安心させた。
「何があるかわからん。どんくらい時間かかるかもや。御九里、左前、少し下がって構えててや。」
土御門の指示に従い、御九里は太刀を、左前と呼ばれた白髪、白ひげの術者は鏡のようなものを構えた。
「では、異界の扉を開きますよ!設楽、補助を」
土門が入口の右、土門のお付きの設楽と呼ばれた男性陰陽師が左につき、それぞれ手のひらを灰色の空間に押し付ける。
「言問へば いふやの社の 岩戸あけめや
根の国の むこふの闇に 夜といへばや」
左右の術者が触れている部分から灰色の空間が横に裂け始めた。ぐぐ・・・ぐぐ・・・っと大きく開き、まるで灰色の空間が瞳を開いたような形になる。