• テキストサイズ

天狐あやかし秘譚

第116章 温慈恵和(おんじけいか)


「なに?ダメなん?」
「いや・・・ダメ・・・じゃないんやけど・・・。ちょっと散らかっとるけ・・・その・・・ホテル取るけさ、えっと・・・お仕事場の近く!そう、丸の内なんよ!?」
「ああ、そう言えば公務員になったっち言いよったね。仕事場そんなすごかとこなん?」
「そ、そうなんよ・・・やけさ、家(うち)の方は・・・」
「でもねえ・・・丸の内のホテルなんか高いやろ?母さん、狭くてもよかよ?何なら一緒に片付けも手伝うっちゃけど?」

あ・・・え・・・っと。

日本酒がなくなったのか、ソファの上でダリが狐モードになってカリカリと後ろ足で喉を掻いていた。

「だーめっ!」
退屈した芝三郎がどうやらくーちゃんに手を出そうとしたみたいで、清香ちゃんが慌てて間に割って入ろうとしている。

「え?何?子どもの声せんやった?あんた・・・?」
「あ・・えっと・・・き、近所の子の声やかね?・・・お隣近いけ・・・ははははは・・・」

やば、と一瞬思ったが、ぼんやりしているところがある母は、私の見え透いた言い訳に対しても、『そうなの?』と軽く受け流してくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。

「まあ、とにかく、明後日そっちに飛行機で行くけね。よろしくね」

え!?あ・・・明後日!?

その言葉に私の背筋がゾッと寒くなる。明後日までにこの状態の我が家を一体どうしろと!『ちょっと!』っと言いかけた私の声は完全に無視され、無情にもプツリと通話は切られてしまった。

後には、つーつーつーという電子音だけが響いていた。

ちょ・・・え?
ええええええっ!!!
ど、どうしよう・・・

のんびりとした時間の流れる綿貫亭の中、私だけがひやりとした冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
/ 1414ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp