第108章 顧復之恩(こふくのおん)
そして、御九里はこれまでずっと、母親である塔若子がこれ以上罪を犯さないよう、自らの手で祓うことを誓って、追い続けていたこと。
その思いを全て分かるとは、とても言えないけれども、辛そうにしている彼を、なんとか支えたいと、彼女は思っていた。
「おかゆ・・・作ってくれたんだ」
後ろにいる日暮の方を一瞥すると、唐突に御九里は言った。
「一回だけ、なんだけどさ・・・。多分、俺が・・・6歳くらいの時。インフルエンザかなんかになっちまって、高熱でうなされてたとき・・・さ、おかゆ出してくれたんだ」
御九里の頬に涙が流れていた。
それは、顎を伝って、一粒、そして、また一粒と地面に落ちていった。
「今から考えるとさ、あれ、レトルトだったと思うんだけど・・・でも・・でもさ・・・俺のために・・・」
肩が震えていた。そんな御九里の背中を、温かい感触が包み込む。日暮が、彼を抱きしめていた。背中におでこをつけて、ギュッと、彼の身体を掻き抱いていた。おそらくいつもなら、それを振り払っていただろう御九里も、このときは日暮のするがままにさせていた。
「あの時・・・あの時・・・鬼になったのは・・・お・・・俺が・・・傷つけられたからで・・・お、俺が・・・俺さえいなければ・・・いなければ・・・」
母さん・・・
絞り出すような声が御九里の口から漏れる。
幼い日、彼があの環境の中、死なずに済んだのは、
たとえ不器用であっても、彼の母親の愛情があったからだ。
彼女は邪険にしながらも、決して彼を捨てることはなかった。
『父』の元を離れたのも、彼がいたからだった。
そして、鬼になって、彼のことを忘れ果てたはずだったのに・・・
最期の最期で、十和子は・・・いや『塔若子』は、彼を突き飛ばしてダンプカーに轢かれないようにしたのだ。
御九里の目から、とめどなく涙が溢れてくる。
記憶が、思い出が、堰を切ったように溢れてくる。
声にならない嗚咽が止まらない。
そして、その心は、後悔と罪悪感でぐちゃぐちゃになっていた。