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天狐あやかし秘譚

第104章 追奔逐北(ついほんちくほく)


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【追奔逐北】走って逃げる賊などを追いかけるという意味。
どこまでも追いかけて、捕まえちゃうぞ!みたいな。
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ターミナル駅から少し離れたところに、バー『ZX』はあった。地下に降りていく構造上、紹介者がいない状態でひとりで入るにはなかなか勇気がいるが、店自体は至って普通のバーであり、特に『一見さんお断り』でもなければ、怪しい客が出入りしているということもない。

バーカウンターに椅子が8つのみの小さな店。ただ、ここのバーテン、松野はベテランバーテンダーであり、彼の作るカクテルは好評だった。

この『ZX』の奥から二番目の席に、その女性は座っていた。年の頃は30代前半だろうか。緩やかなウェーブの掛かったロングヘアに、深いワインレッドのブラウス。薄暗いバーの照明がそのシアーな生地をかすかに透かし、肩から腕にかけてのしなやかなラインが大人の色気を漂わせている。

彼女がグラスに口を寄せるたび、たっぷりとしたボリュームスリーブが揺れる。そのロマンティックなトップスとは対照的に、組んだ脚の線にぴたりと沿う黒いレザーパンツが、スポットライトを鈍く反射していた。

カウンターの向こうでは、松野がゆっくりとした仕草でグラスを磨いていた。

手前の席に10分ほど前から座っていた奥田は、表面上こそ冷静さを装っていたものの、その実、心の中でほくそ笑んでいた。

ーさっきから見ていても待ち合わせって感じじゃないよな・・・

奥田はこの界隈では有名なナンパ師だった。そんな彼だったが、うまくいかない日もある。今日が丁度そうであり、先程まで別の店で散々チャレンジしていたが、そのことごとくが空振りだった。もう帰ろうか・・・そう思って最後に立ち寄ったこの店で、こんな上玉に出会えるとは・・・、そう思っていた。

気取られない程度にチラチラと目をやり、体つきを観察する。

ぷっくりとした甘そうな唇
切れ長の目に、上品な化粧
首筋は白く、優雅なラインを見せていた。
胸は豊かで、腰は細く、衣服を着ていてもスタイルの良さがうかがえる。

それは奥田をして劣情を掻き立てるのに十分な肢体だった。

ーさて・・・どんな手で行くかな・・・
 飲んでいるのはマティーニか?
 もう少しで空になる・・・か・・・よし・・・。
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