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天狐あやかし秘譚

第102章 能鷹隠爪(のうよういんそう)


マーカスが指示を出す。傭兵たちはその影を取り囲むように半円形に素早く展開した。同士討ちを避けるため、半円以上には囲み切ることはしない。

「撃ち殺せ!」

ダダダダダダっ!!

斉射された銃声が洋上に幾重にも響く。黒い影は「とう!」と掛け声をかけると、ありえないほどの跳躍力で、10メートルはあろうかという手近なコンテナの上に一気に飛び上がった。

「な・・・なんだあいつ!」

コンテナの上、満月の光をバックに逆光になって顔がよく見えない。小柄で華奢そうな身体、全身が黒尽くめで、頭には尖った二つの突起がついている。そして、頭部には青金に輝く大きな瞳があった。

その姿はまるで・・・

ーおいおい・・・嘘だろ!?

先程、銃弾を躱したありえないほどの身のこなしと跳躍力を見ていなければ、コスプレか何かだと思うに違いない。しかし、それを見てしまった以上、アレを危険な敵、と認識せざるを得なかった。

「キャット・・・ウーマン?」
誰かが言った。その時、黒影の腰のあたりからするりと長い尻尾のようなものが見える。

「違うわ・・・私の名は・・・!
 月影に舞う、正義の黒猫・・・・
 綺羅羅黒猫戦乙女(ブラックキャット・ヴァルキリー)
 闇夜を照らし・・・只今、見参!!!」

黒猫のような女、改めヴァルキリーが、「とう!」と、コンテナから傭兵たちに躍りかかる。

「う・・・撃て!」

ダダダダダダダダッ!
  ダダダダダダダダッ!

一斉に撃った弾丸は、その影を捉えることはなかった。影は空を蹴り、跳躍の軌道を変える。そしてそのまま、宙空でくるくると三回ほどその身を回転させると、踵に遠心力と重力をたっぷりと込め、鮮烈な一撃を兵のひとりにお見舞いする。

「慈悲の戦鎚(エイル・ハンマー)!」

「ぐはあっ!」

肩口に超重量の踵落としをくらい、屈強なギークがあっさりと倒れる。そのまま着地をすると、ナイフで首を狙ってきた傭兵の斬撃を上半身をのけぞらせて躱す。そして、足をスプリットさせて身体を地面に落とすと、左手をつき、素早く身体全体を回転させ、襲ってきた傭兵の腹に強烈な蹴りを食らわせた。

「純潔の戦槍(ゲイル・ヴォル)!」

蹴りで吹き飛ばされた傭兵は、その背後にいた男も巻き込んで、二人一緒にコンテナに全身を強打させ失神した。
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