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天狐あやかし秘譚

第92章 背水之陣(はいすいのじん)


「こりゃ余裕だな」
カダマシがにやりと笑った、その時だった。

土御門の目がにいっと細く三日月のように歪み、口が耳まで裂けた。

「月のない夜に歩くと・・・狐に誑かされると母に言われなんだか?」
その口から響いた声は、土御門のものではなかった。

ーこの声は!?

クチナワとカダマシは戸惑ったが、ヤギョウはそのまま洞に突っ込んでいく。その姿を見て、カダマシも思い直した。

ーとにかく、今は黄泉路に麻衣と死返玉を送り込むことが第一!

「行け!ヤギョウ!」
《ぐ・・・むぅ》

「解(ほど)けろ」

黄泉の洞の前で、土御門が両手を広げ嗤う。
その瞬間、カダマシにとって信じられないことが起こった。

「なんだ・・・こりゃあ・・・っ!」

ビシ・・・ビシシシシッ!

周囲の景色にヒビが入る。

バリン!

ガラスの砕け散るような音が響き、周囲の景色が全て粉々に割れていく。割れた景色の破片はキラキラと夜の闇に舞い散り、消えていった。

「一体・・・なんだ!?」
クチナワは、キョロキョロとあたりを見渡す。

先程まで燃え盛っていた森はしんと静まり返ったままの姿を見せていた。燃える家屋もなければ雷の落ちた形跡すらなかった。そして、そもそも、この場所は黄泉平坂ですらなかった。

「はい、はい、おつかれさん。あんさんらの作戦、よおく、わかったわ。
 陽動からの、一発ドン、で千引の大岩攻略、一気に中に攻め入るってな・・・」
「一体・・・何だ・・・何が起こった?」

ヤギョウは沈黙を守っているが、周囲を警戒しているようだった。それもそのはず。割れた景色の向こうには、十数台の篝火、そして、何十もの狩衣装束を身につけた、陰陽寮の陰陽師たちが彼らを取り囲んでいたからである。

将軍剣を担いだアロハの男、土御門が少し小高い丘の上からカダマシ、クチナワ、そしてヤギョウを見据えて、不敵に笑っていた。

そして、先程まで『土御門』だった者を見たカダマシは再び目を剥いた。

「貴様・・・天狐かぁ!!」

そこには、狐神モードのダリが、槍を肩に掛けて立っていた。
「残りの全て・・・今宵、返してもらうぞ・・・」

ダリもまた、愉しそうに目を細めていた。
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