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天狐あやかし秘譚

第92章 背水之陣(はいすいのじん)


カダマシはぐっと拳を握る。手元の時計は、今やっと10時45分25秒を指していた。奇襲は成功だ、とカダマシは判断した。

ただ、その洞の前にはアロハを着た糸目の男、先日自分をボロボロにした張本人である土御門加苅が立っていた。

ーおいおい、舐めきってるのか?
 ひとりで、防ぎきれるものかよ。

カダマシは薄く笑う。そう、コイツラは俺達の戦力を知らない。自分とクチナワ、もしかしたらお館様を警戒しているかもしれないけれど・・・、そう考える。

ーでも、残念だな!こっちには、もう一人いるんだよ・・・とびきりの戦力が!

カダマシは次に天を振り仰ぎ、あらん限りの大声を上げた。

「ヤギョウよぉおおおお!!」

その叫びに呼応し、ドンと遠くで地響きが起こる。数秒後、大音響を巻き起こして、黄泉平坂の前に着地したのは、紫の頭巾をかぶり、戦国武将が身につけるようないわゆる甲冑に身を固めた大男、緋紅からヤギョウと呼ばれていた男だった。

ヤギョウは、小脇に一見すると棺にも似た木製の箱を抱えていた。カダマシはあの中に緩衝材に埋もれている麻衣がいることを知っている。

そう、ヤギョウは3キロ以上離れた山の上で待機していたのだ。カダマシが千引の大岩を破壊し、黄泉路が開いたら合図することになっていた。そして、その合図でヤギョウが死返玉と麻衣を持って、ここまで跳んでくる、そういう事になっていた。

ヤギョウの膂力はカダマシの『童子』のそれを軽く凌駕する。
3キロほどを一気に跳ぶことなど容易であった。

着地をしたヤギョウが黄泉路に駆け込んでいく。
ここまでで10時45分32秒・・・

「予定通りだよなあ!おい!」
空から野衾に抱えられたクチナワが舞い降りてくる。
10時45分39秒・・・

ーよし!あとは、クチナワと俺とで、あの土御門をぶっ飛ばしちまえば・・・っ!

カダマシもまた入口に走る。
クチナワは、両手を掲げて、鎌鼬と雷獣を数匹召喚する。

あたりに立ち込める喧騒。
燃え盛る森、遠くで炸裂する家屋、雷が落ちる音、木々が焦げる匂い、
昏くどこまでも続いてるかのような黄泉への洞・・・

すべてが上手くいっている。他に陰陽師の気配もしない。それをカダマシは自分たちの速攻が殊の外うまくいったことだと考えていた。
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