第1章
。彼女はとても美しい吸血鬼だ。
黒い髪が肩まで流れ、赤みがかった瞳が夜の闇を映す。
東欧の故郷から遠く離れた国境を越えて英国に辿り着いてから、数え切れぬ月日が流れた。
人間の血を必要とする。
飢えを感じれば、街の酒場や社交場で
魅力的な男性を誘い、一夜の恋を装う。
行為の最中に首筋に牙を立て、血を吸う。
人はそれを快楽の頂点として感じるのだ。
は食事に満足し、
相手は甘い記憶だけを残して去る。
食事頻度は月に2、3度。
必要最小限に抑え、目立たぬよう心がけていた。
それが彼女の暮らしだった。
ある日の夜、はいつものように、酒場に入った。
すぐに視線を集める彼女の美貌は、酒場の中で一際輝いている。
やがて、隣に座った若い男が声をかけてきた。
黒髪をオールバックに整えたその男は、青い瞳が輝く好青年だった。
「美しいレディー、一人だなんて勿体ない。僕が一杯おごらせてくれないかな? 名前は?」
は微笑み、赤い瞳を彼に向けた。
の魅力は、ただの美しさではない。
吸血鬼の力で、相手を魅了するのだ。
こういった時にはいつも偽名を使う。
「アンナよ。今日は少し疲れてて一人で静かに飲みたい気分だったの……でも、貴方のような素敵な人なら歓迎するわ」
男は目を輝かせ、グラスを近づけた。
「エドワードだ。君のような絶世の美女と話せるなんて、光栄だよ。この辺りで暮らしているのかい?」
は軽く笑い、グラスを合わせた。
「えぇ。ロンドンは賑やかで楽しいけど、時々寂しいわ。
あなたは?貴族みたいね、こんな酒場で珍しい。」
エドワードは自慢げに語り始めた。
「そうさ、伯爵の息子さ。父の仕事で貿易をやってる。君の瞳のような宝石を商売しているんだ。」
エドワードは自分ことを気持ちよさそうに語った。は聞き役に徹し、時折微笑む。
エドワードは彼女の手を取った。
「アンナ、場所を変えて僕の部屋でゆっくりしないか? いいワインがあるよ。君と乾杯したい。」
は頷き、立ち上がった。
「ええ、行きましょう。あなたとなら楽しい夜になりそう。」
二人は酒場を後にし、男の宿泊する部屋へ向かった。