• テキストサイズ

ネコの運ぶ夢

第8章 ネコは残業を待てない


☆☆☆
自宅最寄り駅についたときには、酷い夕立(いや、もう夜中だから夜立ち?)だった。闇夜に雷が激しく瞬く様子が電車の中からも見えており、雨が激しくアスファルトを叩いている。

傘持ってねーや。

夏にふさわしくないほどのひんやりとした風が吹き抜けてくる。夏の軽装では寒気を感じるくらいだ。

コンビニで傘買って、早く帰らないと・・・。

ビカッとまた稲光が走る。すぐさま轟く雷鳴。
隣りにいた女性が小さい悲鳴を上げる。

駅の改札を出る。そこで、俺はギョッとした。
駅の柱に音子が頭を抱えてうずくまっていた。雷鳴が轟く度に身を震わせ、遠目にもガタガタと震えているのが分かる。服も薄着で、あの格好で、この気温では風邪を引いてしまう。

「音子!」

駆け寄って抱き起こす。七分袖のワンピースから出ている腕が異常に冷たく、体全体がぐったりしている。その上、彼女の顔は蒼白だった。

「おい!音子!!」

薄く目を開けると、やっと俺の方を見る。
なんだ、一体何が起こった?

「よか・・・た・・・市ノ瀬・・・さんが、帰ってこなかったらどうしようって・・・私・・・」
「帰ってきたよ。すまん、仕事が遅くなった。お前、いつからここにいるんだ?雨に濡れていないか?」

音子は力なく、首をふる。
体に触れた感じ、濡れてはいない。

「ごめんなさい・・・お家にいられなくて・・・私・・・怖くなっちゃって」
とにかく、手を握って温める。首筋も冷たい。早く温かいところに!

俺は大慌てで音子を背負って、激しい雨を突っ切って、駅前のタクシー乗り場まで走った。並んでいる人がいたが、「すまない、急病人なんだ!」と言って、強引に横入りをする。
並んでいた人、すみません。

運転手も、俺のただならぬ形相で異変を察知したのか、「病院に行きますか?」と言ってくれた。とりあえず、自宅に戻ることにする。

幸運なことに、自宅につく頃には雷は落ち着き、雨も小ぶりになった。
料金を払うと、そのまままた音子を背負って家に転がり込むように帰り着いた。

とにかく、温めなくては・・・。

ありったけの布団を取りだし、音子を包む。それから風呂を沸かす。
キッチンでもお湯を沸かし、温かいお茶を淹れる。

音子・・・音子・・・
/ 52ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp