第6章 お料理ネコ
そうだろうな。いつもご飯のときは嬉しそうだが、今日は輪をかけて嬉しそうに見える。
焼く前に、ソースの準備。いちばん簡単なやつ。ウスターソースとケチャップを少し小さい深皿に出しておく。焼き終わった後、これをフライパンに入れてソース完成。
まあ、こんなもんだろう。
ハンバーグの焼けるいい匂いがする。実に40年ぶりくらいに作った割には美味しそうにできたように思う。一個、ひび割れたが・・・。
焼いている間に、副菜を皿に盛り付ける。スープをもう一度火にかけ、温める。揚げ焼きもマリネも冷めてもおいしいので、このままでいいはず。
さあ、ひっくり返すぞ。一個はうまくいったが、ひび割れたもう一個は完全に割れた。まあ、こっちは俺んだな。
なんだかんだ言って、1時間以上準備にかかった。その間、飽きもせず音子は俺が料理をするところをじっと見ていた。
一応、ハンバーグなので、ご飯ではなく、ロールパンを添えてみる。
これでどうだ?結構、俺の調理技能の限界だ。
「わあ!!!すごい!すごいです!!市ノ瀬さん!天才シェフです」
やめてくれ、大げさすぎて、心の置き所に困る。ハンバーグ一個割れているし、単なる家庭料理だ。
音子が席につく。俺も向かいの席に座った。
「いただきます」
うちにはフォークはあるが、ナイフなるものがないので、箸を出してある。主食がパンで橋というのもなかなかシュールだが、勘弁して欲しい。
ハンバーグを口に運ぶ。ああ、ちゃんと火が通っている。よかった、そこそこ美味しい。
ここで俺はやっと異変に気づいた。音子が全く手を付けていない。
ハンバーグを凝視するようにうつむいて動かないでいた。表情が見えない。いったい何があった。
「音子・・・どうした?」
声をかけると、ぽたりと、うつむいた音子の顔からしずくが落ちるのが見えた。よく見ると、肩が震えている。
泣いている?
涙のしずくはぽろぽろぽろぽろとめどなく流れている。そのうち、ずびびっと鼻をすする音がする。何があったかわからんが、鼻はかめ。
音子にティッシュを渡すとこちらを見ずに受け取って鼻をかむ。うわら若い乙女がズビズビ鼻をかむ姿はあまりよろしいものではない。
「何がどうした・・・。嫌だったか?」
尋ねると、音子は無言で大きく首をふる。
ぐいっと手のひらで涙を拭いてようやく顔を上げた。
