第4章 深すぎず浅すぎず、近すぎす遠すぎず
公安にいた頃の朝は、合同訓練のサイレンで始まり、
朝食は栄養管理された淡々としたものだった。
でも、ここは違う。
ジーニストの家の朝は、
静かであたたかかった。
トーストの香り。
コーヒーの蒸気。
焼きたての卵の匂い。
こんなの、今まで経験したことがなかった。
「……いい匂い……」
が台所に入ると、
ジーニストがエプロン姿で振り向いた。
「おはよう、
よく眠れたかい?」
公安にいた時には聞いたことのない、
“やさしい朝の声”。
は少し照れながらも頷いた。
「……うん。
こわく、なかった。」
「それは良かった。」
ジーニストは満足げに微笑む。
「朝食にしよう。
今日は学校の準備もある。」
「うん!」
温かいテーブルを囲む朝。
“家族”という形が、
胸のどこかをくすぐった。