第4章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・後編】
「お前…まだそんな事考えてたのか…」
当時、ひとりだけ安全な京都に居たことを負い目に感じて、ずっと自分を責め続けていたルル。
マキマはそんな彼女の罪悪感に漬け込んだのではないだろうかと勘繰ってしまう。
「俺たちは捨て駒じゃない…」
黒い感情が湧き上がってくると同時に、公安を辞めてまで与えられた難しい任務を忠実にこなしてきたルルに対して、改めて尊敬と情愛の気持ちを持った。
アキはルルの頬に手をあてて上を向かせた。
「ルル、お前はよくやった。本当に凄いヤツだ。…でも、もう二度とこんな真似はしないでくれ……頼む…」
『…ぇ…』
戸惑うルルを、もう一度強く抱きしめる。
「お前が無事で本当に良かった。……もう、離さないからな」
『……アキ、先輩…?』
そしてアキは
先程からずっと頭の中にあった、ある言葉を口にした。
「…このまま2人で逃げよう」
先日の犯人グループの男がルルの写真を持っていた時点で、既に手遅れだった。
あの時、もっと死に物狂いで彼女を探し出すべきだった。
それくらい危険な状況だった…
これ以上いまの任務を続けていたら、ルルはそう遠くない未来に死ぬだろう。
それを分かっていながら彼女をかえすことなど、アキの選択肢には無かった。
家族を殺されてから何年も追い続けていた銃の悪魔への復讐心よりも、いま腕の中にいるルルを失うことへの恐怖心の方がずっとずっと大きくなっていた。
アキは、決意を込めてルルの手を取った。
「一緒ならどんな困難にも立ち向かえる。会えなくなって初めて気が付いた…俺が何より怖いのは、お前を失うことだ」
『……アキ先輩………でも、っ…』
アキは、ルルの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「俺がルルを守る。これ以上、危険な目に遭わせたくない。……お前を…愛してるんだ…」
心からの告白に、ルルの瞳から透明な雫がこぼれ落ちる。
アキは両手で彼女の頬を包み、親指で涙のあとを優しく拭うと
柔らかな唇にそっと口付けた…