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君の隣で眠らせて【チェンソーマン短編集】

第3章 初めてのキスは…【デンジ夢・後編】



「なんで急に…そんなこと言うんだよ」
『…マキマさんの電話、明日の集合場所って…どこだったの?』

視線をベランダの窓の外へ向けて、心ここに在らずといった様子のルルに、デンジは戸惑っていた。

「……」
『…この部屋からはちょっと遠い場所で……集合時間も、早朝だったんじゃないかな…』
「ぇ…何で…?………聞いてたのか?…いや、でもこの距離じゃあ…」
『…聞いてたのは私じゃないよ』

意味深な言葉を言って寂しそうに微笑む。

『とにかく今日は帰って?続きは…また、今度』

ルルのそんな態度に混乱しながらもデンジは理解を示した。

「…お、おぅ。分かったよ…」

渋々ながら服を着替えて、玄関へ向かう。
靴を履き終えたデンジは、見送りにきたルルの方に向き直った。

「あのさ!ルルさん…」
『ん?』
「…俺の気持ち、ちゃんと伝わってるよな?……俺…ルルさんのことが好…」

その瞬間、ルルは言葉を遮るようにデンジの唇を塞いだ。
突然のキスに時が止まる。

唇を離した後も、デンジは動けずにいた。
心臓だけが激しく鼓動する。

そんなデンジの瞳を真っ直ぐに見つめて、ルルは静かに言った。

『じゃあね、デンジ君。…気をつけて』

押し出されたマンションの廊下に、ドアの閉まる音が響く。
デンジは呆然としながらエレベーターで1階へと降りた。

「…ルルさん…急にどうしたんだよ…」

出てきたばかりのマンションを恨めしそうに見上げるデンジ。
真夜中なのでほとんどの部屋は明かりが消え、しんと静まり返っていた。


「……俺……いま、ルルさんと…」

無意識に指先で唇に触れると、先ほどの感触がよみがえってくる。


ルルと、キスをした。
多分、彼女にとっては初めてのキスだったのだと思う。

それを受け取ったはずなのに、思い描いていたような高揚感は感じられなかった。
だって、あれはまるで…


「……別れのキス、みたいだったな…」

ポツリと呟き、家へ帰る道を歩き出したデンジを
向かいのビルの屋上に止まっていたカラスが、黒い瞳で見つめていた…





初めてのキスは…【デンジ夢・後編】 

終わり



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