【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第4章 The Line Between Us
今この瞬間、仁美の唇は、研磨のものだ。
彼女の頬も、吐息も、指先の震えも全部––––。
自分が受け止めている。
「……っ。」
彼女が小さく息を吐くたび、研磨の胸の奥がじんわり熱くなる。
唇を離すことが怖くなる。
まるでこのまま時間を止めて、外の世界ごと全部閉ざしてしまいたいような衝動だった。
研磨は仁美の髪を指先で撫で、また角度を変えて、彼女の唇を捕らえる。
もうあの日の約束は、どこにもない。
研磨の唇が仁美から離れた瞬間、彼女は小さく震える肩を押しのけるようにして身を引いた。
乱れた呼吸のまま、涙をためた目で研磨を睨みつける。
その瞳には、驚きと痛み、怒りが入り混じっていた。
外の人の気配は、もうとっくに消えていた。
仁美はイヤフォンを外し、研磨の胸元に押し付けた。
「……知ってたの?」
仁美の声は震えていた。
息を整える余裕もなく、言葉を吐き出すように研磨に問いかける。