【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第8章 Unholy Devotion
低く、冷静で、熱い声。
サーブ前、チーム全員の目が黒尾に向く。
彼は軽くうなずいただけで、皆の緊張がほどけていく。
仁美は応援席で胸が高鳴るのを押さえられない。
(…クロ、やっぱりすごい。)
研磨は相変わらず無表情で鋭くトスを上げる。
静かに、淡々と、誰より正確に。
黒尾が空へ跳ぶ。
高い、まっすぐな軌道。
叩きつけるスパイク——
観客席から歓声が上がる。
勝負の最中、黒尾は一切ぶれなかった。
仲間の声を拾い、状況を読み、常に最適な判断を下す。
そして、ふと視線を上げた時。
応援席の前列で手を握りしめている仁美が見えた。
(……来てるな。)
その目が、少しだけ柔らかくなる。
だが、次の瞬間。
視界の端に別の影が映る。
人の列の後ろ。
静かに立つまどか。
スマホを握りしめ、黒尾だけを見ている女。
黒尾は呼吸を一瞬だけ止めた。
ほんの刹那の揺らぎ。
研磨はその揺れを、トスの態勢のまま横目で捉えた。