【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第6章 No One’s Yours
仁美は抗わなかった。
素直に研磨の背中に腕を回し、そのぬくもりに体を委ねる。
鼻先に、彼のシャンプーのかすかな香りがした。
顔を少し上げると、研磨の顔がすぐそこにあった。
ためらいも、言葉もなく、彼は静かに顔を近づける。
唇が触れ合った瞬間、涙の温度と体温が溶け合って、胸の奥が静かに震えた。
二人の唇が、何度も触れては離れ、また惹き合う。
浅いキスだったものが、深くなり、彼の舌が仁美の唇を割って入ってきた。
涙の余韻がまだ瞼の奥に残っているのに、心臓の鼓動はそれとは別のリズムで跳ねていた。
唇が離れたほんの一瞬、研磨が小さく息を吐く。
その吐息が仁美の頬にかかる距離だった。
「……俺、さ……。」
研磨は仁美の髪を指先でかき分けるようにして、そっと囁いた。
「一年下だから……頼りにならないって、思われてる?」
「……ちがう。……研磨と……離れるのが、辛いだけ。」
言葉を口にした瞬間、胸の奥がきゅっと縮まる。
研磨の目が、一瞬やわらかく揺れた。