第11章 マグカップ
付き合って初めてのデートは高専近くのショッピングモールだった。
呪術高専に入学直前、寮で一人暮らしを始めたばかりの鈴の部屋には備え付けの家電以外のものがない。
だから伏黒から次の土曜にどこに行きたいか聞かれた時、鈴は買い物に行きたいと答えたのだ。
とはいえお金はない。二人はショッピングモール内の100円ショップに向かった。
「わぁ、かわいい〜」
食器コーナー。品揃えも豊富でどれにしようか迷ってしまう。
「これ、どっちがいいかな?」
鈴が両手に持つのは犬柄と猫柄のマグカップ。
動物好きとしてはどちらも捨てがたい。
「どっちでも蓮見の好きな方で」
「どっちも好きだから聞いてるのに」
鈴は笑いながら、猫の方をかごに入れた。犬はまた今度買おう。
「ここ、フライパンもあるんだねー」
「フライパンは違う所で買った方がよくないか?」
さすがに100円では品質が心許ない。
二人は場所を移動して、お値段以上が売りのインテリア用品店に向かった。
「いっぱいあるね。どれがいいのかな?」
「とりあえず、片手鍋とフライパンがひとつずつあればいいと思うけど」
「伏黒くんて、料理得意?」
「得意ではないけど、まぁ普通に」
「すごいねぇ。私、料理苦手だから。ちゃんとお母さんに習っておけばよかった…」
そういえばと、中学の家庭科の授業を思い出した。
調理実習の時、彼女は米を洗剤で洗おうとして友人に必死で止められていた。
料理が苦手というか、経験が少ないんだろう。
母親がすぐ近くにいたから、いつでも習えると思っていたのかもしれない。今ではそれも叶わない。
伏黒はフライパン選びに格闘する鈴の頭をそっと撫でた。
「伏黒くん、どうしたの?」
「別に」