第10章 バスルーム ※
数日後の呪術高専。先日の任務の報告書を出しに来た野薔薇は親友を見かけ近づいた。首の後ろに虫刺されみたいな赤い痕。
「あんたこれどうしたの?虫刺され?」
「ひゃあ!?野薔薇ちゃん!?」
いきなりジェルネイルの尖った爪先で首筋をつんつんされ、鈴は慌てふためく。
「赤くなってるわよ。硝子さんにムヒもらったら?」
「あの、そう!ほんと虫刺されってムヒ効くよね!」
「…それ、ほんとに虫刺され?」
「虫刺されだよ!最近暑いし!困っちゃうよねー」
「ふーん?」
(頭の黒い虫に噛まれたなんて絶対言えない…)
鈴は真っ赤な顔のまま、お団子にしていた髪をほどいて、ロールアップに結び直した。見えるところに残っていた痕は消えていたのに、首の後ろは死角。恵にちゃんと確認してもらえばよかった。
野薔薇と当たり障りない会話をしていたら、同じく高専に訪れていた伏黒が前から歩いてきてなんだか気恥ずかしい。
「あら、一緒に来てたの?」
「悪いか?健診だよ」
「相変わらず仲がよろしいことで」
野薔薇に茶化されるのはいつものことなので、挙動不審な鈴を横目に伏黒はまるっとスルーした。
二人と別れた野薔薇は医務室に向かった。すると虎杖が居てヨッと挨拶する。
「あんたももしかして健診?」
「うん、何で知ってんの?」
「さっき伏黒と鈴に会った」
「ああ、蓮見元気?俺、全然会わないからさ」
「伏黒に聞けば?」
「教えてくれねぇもん。いつ聞いても普通だって」
「ムッツリだからかしら…」
「それ関係ある?あー、でも…」
虎杖は思い出したように顔を上げた。野薔薇は視線で続きを促す。
「さっき着替える時一緒だったんだけど。あいつの背中に引っ掻かれたみたいな傷があって、どんな呪霊にやられたんだよって聞いたらさ、どう足掻いても手に負えないのがいるって言うんだよな。一大事じゃんって思ったんだけど、あいつにあんな傷つけれる奴なんて一人しかいないよな」
「そういうことね」
二人して盛大なため息を吐いた。